軽く読みやすい本です。
脳科学者で学歴に優れたちょい年上の女性、家にテレビがない私でも「この人どこかで見たことあるな…」と思い返すと、フジテレビ系「ホンマでっかテレビ」でよく出演されている方ですね。そのせいか、明石家さんまさんがMBSラジオ「ヤングタウン土曜日」で語ったという努力についての言葉の引用が効果的に使われていて、ここの引用だけでも手元に置いておく価値はあるなと思います。ワーカホリックな怪物だと思われがちなさんまさんの言葉だからこそ面白い。孫引きですけれど、読んでみましょう。
この日ゲストだったアイドルグループ「アップアップガールズ(仮)」の佐藤綾乃さんがインタビューで言っていたという、こんな話が紹介された。
「努力は必ず報われる。その言葉、最初は信じなかったんですよ。そんなこと言っても、本当に努力を見てくれているのかよって。でも、自分の経験上、努力をしていれば必ず誰かが見てくれていて、報われることがわかりました」
これに対してさんまさんは、「それは早くやめた方がええね、この考え方は」とバッサリ。佐藤さんやレギュラーメンバーのモーニング娘。道重さゆみさんが驚いていると、「努力は報われると思う人はダメですね。努力を努力だと思ってる人は大体間違い」と持論を展開した。
「好きだからやってるだけよ、で終わっといた方がええね。これが報われるんだと思うと良くない。こんだけ努力してるのに何でってなると腹が立つやろ。人は見返り求めるとろくなことないからね。見返りなしでできる人が一番素敵な人やね」
――「J-CASTニュース」2014年6月9日
「努力」が引き起こす社会に対する弊害という視点は社会に広く理解されたほうがいいのではないかと感じます。あらゆるレベルで「無駄な努力」はなくすべきだと言い続けなければいけないと思いますが、その一端としていい本だなと私は感じています。論理的に物事を考えている人でも、必要以上の負荷をかけて日々を過ごしている例は多いはず。この文章を読んでいる皆さんの周りにも、もしかするとあなた自身も負荷をかけること自体が大事なのだ…と思ってはいないでしょうか?
私自身も負荷がかかる状況に置かなければうまく物事が進まないとつい考えてしまいます。
この本でも例として挙げられているように筋力トレーニングでは適度な負荷が目的の筋肉量を増やすために必要だとされています。しかし、実際には過剰な負荷量で疲弊するだけのトレーニングをしてしまい、怪我に泣いてしまったりすぐに飽きてしまったりという結果になってしまうのではないでしょうか。
また、日頃はダラダラしていながら、締め切りが差し迫ったりなにかが「降りてくる」のを待ったりしている人も、別の意味で「努力」という言葉に囚われているのではないかと感じます。余裕のある場面でしたいと思っていること、ついやってしまうことこそが、本当に自分のしたいことなのだと意識を改めなければいけないですね。私自身、自分が楽をしていると思うこと自体に罪悪感があり、微妙な暇つぶしをしては自分自身を苦しめたりすることがあるのですが、それは一番やってはいけないことだとこの本を読んで強く思うようになりました。頑張っているようにみせるために、余裕ある部分を切り詰めていたわけですから罪深いです。自分が没入できる「何か」を丁寧に探り、それを恥ずかしがらずにできる環境を整えるべきなんですね。
この本を大きくまとめてみると、テレビで流れがちな「努力」による美しい物語に酔うのではなく、自分の持ち合わせている生物的な限界、そして才能をしっかり見つめてその才能がいきいきと伸びる方向に自分自身の生き方を定めていくべきという事を説いています。中身は脳科学の知見によって書かれている部分は少なく、教育格差や学歴社会について書かれている部分は妙なこだわりがあって口を挟みたくなります。本当にお手軽に書かれている本だということは一読して分かりますので厳密に、それこそ努力して読む必要はありません。この本こそ「努力不要」な一冊。だからこそ良い本だと言えます。私自身中野氏の他の著書との比較をしていないので、彼女自身の説く努力観を軽々に否定してはいけないなと感じていますね。できることならこの本を入り口にして、より深い内容の本を読むことで脳の働きを活かして生体の働きを心地よくコントロールする方法を習得できると良いでしょう。ただし頑張りすぎないように、ね。
努力不要論 もくじ
はじめに 見返りを求めずに努力できるか?
プロローグ 「努力すれば報われる」は本当か?
高橋みなみ 「努力は報われると、私は人生をもって証明します」/「努力は報われる」は半分本当である/為末大の正論と、エジソンの名言の真意/受験の合否は遺伝で決まる/受験のために必要な能力は伸び代がある/高IQ不要論/努力の成功体験は「サンプル1」にすぎない/成功者の真似をするのはヒトとして健康/2大無駄な努力/AKB48は一歩先を読む努力をしている
第1章 努力は人間をダメにする
本当の努力とは何か?/アラフォー女子のやりがちな、無駄な努力/英語が話せないのは努力が足りないから?才能がないから?/英語を話せるポテンシャルは誰にでもある/努力は人間をスポイルする/努力すると洗脳されやすくなる/佐村河内守氏の事件に見る日本人の努力中毒/努力中毒にならないために
第2章 そもそも日本人にとって努力とは何か?
東条首相の算術「2+2=80」/敗戦の原因は努力/江戸時代、努力は粋ではなかった/薩長政権の功罪/遊びは脳の栄養/「働いたら負け」は健全な変化/ニートは日本が世界に誇る資源/役に立つ事しかしない人間は家畜と同じ/役に立たないところをリッチに/だから婚活女性のほとんどはダメ/努力家は野蛮人/本来のアメリカ型成果主義は努力を強制しない/なぜ欧米には努力中毒が少ないのか?/だから日本人は0から1をつくれない/自分を傷めつけるのが大好きな日本人
第3章 努力が報われないのは社会のせい?
格差社会幻想論/日本ほど教育格差がない国は珍しい/格差を生み出すのはお金でなく発想力/学歴や血筋の良さが必要なのは発想力のない人間/構造を壊すのではなく利用する工夫を/現代は生きる力を奪う社会/生きるためには多少のストレスが必要/世代間格差利用論/「格差」を使ったペテンに騙されるな
第4章 才能の不都合な真実
あなたが報われないのは誰かのせい?/なぜ東大生はやっかみの対象になるのか?/進化心理学で考える天才不遇論/傑出した才能は生存には不利/世界一「報われない…」を感じる日本人/勤勉・誠実な人ほどドス黒い感情が…/努力家は他人の才能を潰す/才能を潰されないために/少子化の原因は嫉妬
第5章 あなたの才能の見つけ方
木嶋佳苗が使ったカード(才能)/アイドルより香川照之/評価軸は臨機応変に変えるべき/短所=才能?/他人のほうが才能を見抜きやすい/偏差値教育不要論/茂木健一郎「予備校は潰れろ!」/才能の壁にぶつかったらどうすればいいのか?
第6章 意志力は夢をかなえる原動力
才能を開花させるために大切な意志力/意志力の強さを決める脳の機能とは?/母乳が子供を天才にする!?/脳のスピードを各駅停車から特急列車へ/前頭前野が薄い人についてのネガティブな見解/前頭前野を大人になってから鍛える/ミラーニューロンを使えば理想の人間に近づける/自分の脳の回路を変える手っ取り早い方法/意志力の差=年収の差/意志力が弱くても、悲観してはいけない
第7章 努力をしない努力をしよう!
他人の才能を使いこなす/才能よりも経験値/努力をしない努力/才能がある人を使うコツとは?/努力しなくても楽しそうな人たち/長生きしたけりゃ努力はするな
おわりに なぜ、ある助産師はマタニティマークをつけることに反対したのか?