転職する際に検討したいことのひとつに、会社がどのような健康保険に加入しているか?ということがあります。
建築設計事務所や工務店、ゼネコンなど建築関連業界の企業では「全国設計事務所健康保険組合」、「全国土木建築国民健康保険組合」、「全国健康保険協会」という3つの健康保険組合のどれかに加入していることがほとんどです。
健康保険というと医療費の負担補助がすぐに思い浮かびますが、健康保険によっては利用できる福利厚生に違いがあります。
例えば病気になったり怪我をしたりした場合の対応だけでなく、病気を予防するための特定健康診査や、精神的に疲労しないようにするストレスチェックなどの対応、そして休暇の際には宿泊施設を利用することができるのです。
これらの内容を知ること、すなわち転職時にはどの健康保険組合に加入しているかということを知れば待遇を確認する際の基準のひとつとなります。また、在職中の方であれば今いる会社が加入している健康保険組合はどのような優遇を受けることができるかを確認してみるのも良いでしょう。
そこで今回は知れば得をする、建築設計事務所や工務店、ゼネコンなどが加入する健康保険組合の中身についてご紹介します。
建築・建設業界企業が加入できる主な健康保険組合は3つ
企業に入社すると、その企業の健康保険に加入することになります。
建築設計事務所や工務店、ゼネコンなど建築・建設業界の企業が加入している健康保険組合は主に3つあり、これは国民健康保険とは別に企業や業界団体を基盤として自由に健康保険組合を設立するものです(以下が主な3つの健康保険組合です)。
・全国設計事務所健康保険組合(設計健保)
・全国土木建築国民健康保険組合(土健保)
・全国健康保険協会(協会けんぽ)
ひとつは建築設計事務所が主に加入している「全国設計事務所健康保険組合(設計健保)」、もうひとつは建設業界を中心とした企業が加入している「全国土木建築国民健康保険組合(土建保)」、そして最後に、政府が運営していて特に業界に関係なく加入することができる「全国健康保険協会(協会けんぽ)」です。
それぞれ保険料率や福利厚生制度に特色があるので、今回はこの3つを保険料・福利厚生制度の両面から比較してみたいと思います。
本来違法だが国民健康保険に入っている人もいる
「小さい会社・設計事務所に入社するあなたの強い味方、労働条件通知書を確認しよう|建築士のための労働基準法入門」でも解説しましたが、企業には社員を健康保険組合に加入させる義務があります。
つまり、会社員で健康保険組合ではなく国民健康保険に加入している状態は本来違法状態なのですが、ここでは健康保険組合は国民健康保険に比べて金銭面や福利厚生面でどのようなメリットがあるのか比較するために併記してあります。
気になる健康保険料の違いは?
まず、月々負担する健康保険料を比較してみましょう。
健康保険料は基本的に、4月から6月までの3ヶ月間の報酬の平均によって決定されます。基本給だけでなく、残業などの手当も報酬に含まれます。ここでは残業代なども含めた月収20万円、30万円、40万円の場合でそれぞれの健康保険組合の保険料がいくらになるかを以下の表にまとめました。
月収 | 設計健保 | 土建保 | 協会けんぽ | 国民健康保険 |
20万円 | ¥9,550 | ¥7,800 | ¥9,960 | ¥11,601 |
30万円 | ¥14,325 | ¥11,700 | ¥14,940 | ¥17,453 |
40万円 | ¥18,145 | ¥14,820 | ¥18,924 | ¥24,141 |
この表から見ると、3つの健康保険組合では国民健康保険に比べてそれぞれ保険料が安くなることが分かりますが、特に3つの中では土健保(土木建築国民健康保険組合)の保険料が一番お得になります。
3つの健康保険組合は企業負担分も含めた保険料はほぼ変わらないのですが、多くの健康保険組合で企業負担分と社員負担分が50%ずつとなっているところ、土建保では社員負担分が42.8%と半分以下となっているため安くなっているのです。月収20万円でも、国民健康保険に比べると月に約3,800円も安くなるのは大きいですね。
月々の給与の負担額だけで比べると、土健保の保険料が一番お得だと言えます。
また、健康保険料は賞与にもかかってきます。それぞれの健康保険組合で賞与にかかる保険料額は以下の表の通りです。
賞与(年間額) | 設計健保 | 土建保 | 協会けんぽ |
50万円 | ¥23,875 | ¥19,500 | ¥24,900 |
100万円 | ¥47,750 | ¥39,000 | ¥49,800 |
ここでも健康保険料負担額は協会けんぽ→設計健保→土建保の順に安くなっています。賞与は額面が大きくなる分だけ、さらに保険料額の違いも大きくなるので、さらに土健保の利点が生きてきます。
月収だけでなく賞与を含めた負担額で比べてみても、土健保の保険料が一番お得だと言えます。
よって、負担額だけで判断するなら土健保が一番お得だと言えます。
ただし、保険の種類によって福利厚生制度は違ってきます。次節ではその違いについて詳しく説明いたしますので是非参考にしてください。
福利厚生制度も健康保険組合によって違いがある
次に、それぞれの健康保険組合での福利厚生制度の特色をご紹介します。
任意継続ができ、健康づくりに力を入れる設計健保
設計健保では以下のような体力づくり・レクリエーションに重点を置いているのが特徴です。
- 設計健保が運営している「けんぽプラザ」内にプールや運動室などを備えたリフレッシュフロアを設けています。
- コナミ、NAS、ルネサンスといったスポーツクラブと提携し、特別会員価格で利用することができます。
- 国内での宿泊に対し、宿泊単価の1/4(上限2,000円)を4泊分まで支給します。
- 直営の熱海リフレッシュセンターをはじめ、保養施設を格安で利用できます。
また、設計健保では退職後2年間は同じ補償内容で健康保険に加入しつづけることができる「任意継続制度」を取ることもできます。
これは保険料が安い土健保にはない制度です。次に説明する土健保の保険内容を比べて「自分に必要な福利厚生は何か?」を保険選びの基準にすることも必要と言えます。
医療補助が充実の土建保
土健保ではさまざまな検診に対する補助が受けられることが特徴です。
- 都心部にある厚生会館ホテルや伊豆山荘、保養研修所ありまなど直営施設の他全国の保養施設を割安で利用できます。
- 団体医療保険や、所得補償保険に加入することもできます。
- インフルエンザ予防接種費用、肝炎ウイルス検査費用、子宮頸がん検診・子宮がん検診費用に補助します。
土健保では先ほど設計健保でご説明した「任意継続制度」を取ることはできません。その点が設計健保との大きな違いとなります。
手堅い協会けんぽ
協会けんぽは都道府県によって福利厚生制度に違いがありますが、東京都の場合は特定健診や人間ドッグなどの補助といった他の健康保険組合も基本的に行っている内容であり、特色といえるものはありません。
このような面から考えると、協会けんぽに比べて設計健保、土健保は上手に福利厚生制度を利用すればお得になることがわかります。
特に設計健保は充実した福利厚生の面で、土健保は月々の保険料がお得という面がメリットと言えます。
全ての保険に言えることですが、利用できそうな制度はなるべく利用できるようにしたいところです。
健康保険組合の制度を知り、メリットを最大限活用しよう
保険料と福利厚生制度の両面から、健康保険組合の違いを解説しましたが、保険料の面から考えると土健保がお得であり、また福利厚生制度では設計健保が協会けんぽに比べて幅広く対応していることがわかりました。
現在設計健保や土健保に加入しているというあなたも、きちんと福利厚生でお得な制度を利用できているでしょうか?
スポーツクラブにお得に入会できたり、旅行の際の宿泊費を補助など医療以外で使える内容の補助も多いですから、是非とも確認しメリットを享受してください。
健康保険は医療費だけでなく、給与に加えてさらに健康で豊かな生活を送るために使えるものだという意識を持って、しっかり活用していきたいですね。