中小企業でしかできない成長のしかた「小さな会社でぼくは育つ」書評

「みんなが名前を知っているような、有名な大企業で働きたい」

そのような考えを持っている方も多いのではないでしょうか。

しかし、日本にある企業のほとんどが、中小企業と呼ばれる規模の小さな会社です。
個人経営の建築設計事務所はもちろん、多くの建築系の企業も中小企業に含まれるでしょう。

今回ご紹介する本「小さな会社でぼくは育つ」は、冒頭のような考え方に対して、
「名は知られていないけど、あなたを伸ばし、あなたの人生を輝かせる会社はむしろ中小企業にある」
という考え方を示してくれます。

これは大企業勤めへのアンチテーゼではなく、必ずしも大企業に勤めることだけが正解ではない、中小企業で働く人のための指南書とも言えます。

この記事では、卑下されてしまいがちな「中小企業」で働くこと、そこで働く魅力と、成長の秘訣を教えてくれる一冊をご紹介します。

小さな会社でぼくは育つ(しごとのわ)
神吉直人
インプレス (2017-01-27)
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経営学に基づく内容と、インタビューによる生の声

「小さな会社でぼくは育つ」の筆者、神吉直人氏は、大学准教授として、経営学を研究されています。
この本は、経営学を専門とする神吉氏による、すこし専門的な内容と、実際に大企業や中小企業で働く人たちへのインタビューによって構成されています。

経営学の視点から見た企業での働き方、人の育ち方を丁寧に解説しながら、実際の現場からの生の声を拾って、中小企業で働くことの魅力を教えてくれることが、本書の特徴です。

中小企業で働くことのメリット・デメリット

中小企業で働く方々へのインタビューで共通してあがる、中小企業で働くことのデメリットは、仕事量の話なのだそうです。
中小企業は従業員の全体数が大企業と比べて少ないため、どうしても1人にかかる負担が大きくなってしまします。

しかし、「仕事量が多い」というデメリットは、視点を変えればとても大きなメリットになります。

経験は成長にとって一番のチャンスです。大企業よりも早くから、責任ある仕事を幅広く体験できる可能性があることは、若いうちに中小企業に身を置くことの、最大のメリットと言えるでしょう。
「小さな会社でぼくは育つ」p.34

この記事を書いている私も、中小企業で働いており、この本のように入社1年目から様々な経験を積むことができました。
細かな業務はもちろん、予算の管理や、クライアントとの折衝など、自分の担当事業として経験することができました。

大企業ではいくつかの経験を積んでからしか任せられないような仕事を、中小企業では早くから経験することができます。

そして、このことは仕事をするうえでのやりがいにつながります。
本書によると、仕事において人がやりがいを感じる条件は、次の2点です。

・担当業務に関して最初から最後まで一任されること
・予算も含めた権限がついてくること

もちろん、やりがい搾取的に重労働を課せられては問題ですが、中小企業は経験を積みながらやりがいを得やすい労働環境だと言えるでしょう。

そのほか、従業員数が少ない分、意思決定の権限を持った社長との距離が近いことなど、中小企業で働くことのデメリットとメリットがいくつか本書には書かれています。

中小企業で育つための方法論

大企業と比べたときの中小企業の大きなデメリットのひとつに、研修プログラムの希薄さがあげられます。

大企業では、入社時に、綿密に組み立てられた手厚い研修プログラムを受けることができます。しかし、そもそもの従業員の数が少ない中小企業では、人手が足りないことが多いので、研修プログラムを担当できる人員を確保できないため、研修プログラム自体がない企業も少なくありません。
そのような職場では、上司も研修プログラムを受けた経験がないため、仕事を教えるスキルがないこともしばしばです。

中小企業で働くことの最大のメリットは、早い時期から仕事を任され、様々な経験を積むことできる点にありました。
研修プログラムが希薄で、上司からも仕事を教えてもらえない労働環境であった場合、中小企業で働くことのメリットを享受するためには、戦力と認められるレベルまで、ある程度は自力で成長する必要があります。

「小さな会社でぼくは育つ」では、経営学の調査結果をもとに、そして実際に中小企業で働く人たちへのインタビューをもとに、中小企業で働くうえで成長しなければならないポイントと、そのための方法論を教えてくれます。

しっかりメモを取ること、仕事のスピードアップの方法、上司との関係のつくり方など様々ですが、いわゆる「当たり前」のことについて、多くのページをさいて解説されています。
中小企業で育つための方法論を考えるうえで、対比として、実際に大企業で働く方へのインタビューを通して、大企業での新人研修プログラムについても記述されています。
そこで求められていることが、「当たり前のことを、当たり前にこなす」こと。

そうしたスキルを、ある程度自力で身につけなければいけない、中小企業で働く人たちにとっては、この本はとても参考になる指南書になるでしょう。

中小企業の経営者が読んでもためになる

今回ご紹介した本「小さな会社でぼくは育つ」は、基本的には、中小企業ではたらく「ぼく」の目線で書かれています。
しかし、見方を変えれば、中小企業を経営する側の目線から読んでも、とてもためになる内容になっています。

中小企業で働くことには、いくつかのデメリットがつきまといます。
しかし、そのデメリットをうまく活用することで、大企業にはない、魅力的なメリットになることをこの本は教えてくれます。

中小企業での経験をステップアップに活かす

今回ご紹介した本「小さな会社でぼくは育つ」を読んでみて、実際に中小企業で働いている身として、自分が置かれている労働環境を見直して、よりメリットを享受できるように、今の仕事のしかたを考え直してみようという意欲がわきました。
せっかく中小企業で働いているのだから、と思えるような考え方と、そのメリットを自分のものにするための方法を、この本は教えてくれます。

中小企業で働くことで得た様々な経験は、その後にも必ず生きてきます。
たとえば転職することになった場合、同年代の人と比べてより多くの経験を積み、リーダーシップをとって仕事を進めてきたことは、有用な人材として大企業にもアピールすることができます。

とは言え、中小企業で働くことのメリットが十分に享受されないような会社だった場合は、なるべく早く見切りをつけて、転職を視野に入れてみても良いかもしれません。
これからの自分のキャリアのために、正しく会社を選びましょう。

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