建築転職ストーリー

単なる資料から使える武器へ。フリーランチによる職務経歴書テクニックとは?

初回キャリア相談を終えて、今後の進め方について方針を固めはじめたKさん。次のステップとして、転職活動において重要なツールとなる職務経歴書を作り始めます。職務経歴書とは、経歴や転職先に貢献できることを伝える書類であるだけに、徹底的な自己分析が欠かせません。Kさんの事例を振り返りながら、職務経歴書作成においてフリーランチが考える重要ポイントをお伝えします。

今回の相談者Kさん

■年齢:
30歳
■家族構成:
奥様とお子様1人の3人家族
■実務経歴:
10年
■経験社数:
3社
■悩み:
ブラック企業での労働環境に悩み退職、今後の進路決定のためフリーランチのキャリア相談を利用

要点がつかめず当初は担当案件を並べただけ
職務経歴書作成の難しさ

タナカ:初回キャリア相談を終えられたKさんは、ここから職務経歴書を作り始めるわけですね。職務経歴書については、まず始めにKさんが作成しフリーランチに共有。それに対するフリーランチのフィードバックをもとに手直しをして完成形へと向かうというプロセスをたどりました。

このインタビューの前には、当初Kさんが作成された職務経歴書も含め、完成形に至るまでの書類全てを拝見しました。特に当初の職務経歴書と完成形のものを比べると書類自体のボリュームも表現方法もがらっと変わっていて、密度のある修正プロセスがあったのだと感じました。

まず初めにうかがいたいのですが、Kさんが作成された初回の職務経歴書については、Kさんの「何について」「どのように」表現したいという思いで作成されましたか。

「当初は自分の思いを伝えたいあまり、職務経歴書自体のボリュームが増えてしまった」

Kさん:根本としては自分の何がアピールポイントになるのかが上手く分析できておらず、また、それを表現する方法についてもアイデアがありませんでした。
ただ、そんななかで今までの実務においてひとつひとつのプロジェクトで苦労したところや当時のドラマが思い出されて、その結果として自分の熱い思いを伝えたいというものになったと思います。その結果として職務経歴書自体のボリュームも増えました。

職務経歴書

Kさんが当初作成された職務経歴書「Before」と、完成形「After」

タナカ:たしかにKさんの場合、新卒で地元ゼネコン会社に入社され、その後にハウスメーカーを経て前職のCM会社というご経歴なので、担当された建物の構造や用途だけ見ても多岐にわたっていて「自分はこれだけのことをやってきた」という想いで案件数を並べたくなる気持ちはすごく分かります。

その結果として初回は8枚に及ぶ職務経歴書になったのだと思いますが、自分がやってきたことに対して誇りをもっている表れのようにも感じます。

そんな想いをもって作っていただいた職務経歴書ですが、これをフリーランチと共有し分析を行った結果、「Kさんの経歴をどのようにアピールすべきか」「どこを削るべきか」などのポイントで職務経歴書の手直しが始まるわけですね。

聞き手はこう見る

職務経歴書における強みの表現方法は、相談者の経歴により変わりますが「強みの勘違い」は避けなくてはいけない重要なポイントです。今回Kさんによる初回の職務経歴書は、今まで担当されたプロジェクトを並べて経験の「量」に重きをおいたものでした。
職務経歴書の枚数が多すぎることで、効果的に資料をまとめるスキルがないと判断されるリスクもあります。大切なのは経験の「量」ではなく「本質的に何ができるか」を表現すること。そのためにもまずは自分の強みを把握し、伝えるべき強みの勘違いを矯正することが大切です。

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武器として有効に働くように
面接の場を支配する職務経歴書ができるまで

タナカ:完成形の職務経歴書を確認するとKさんの経歴のアピールポイントも記載されている案件数も相当しぼられていることが分かります。単純に書類の枚数についても初回の8枚から、3枚にまとめられています。パッと見でも表現方法の精度が上がっていると感じますが、ここにたどり着くまでフリーランチのどのようなアドバイスや考え方をもとに職務経歴書を修正していったのでしょうか。

「『ターゲティング』についてしっかり考えることで、本当に有効な職務経歴書を作ることができた」

Kさん:まずは職務経歴書を修正するやり取りのなかで、もともと抱いていた「自分は結構できるんじゃないか」という思いが改まりました。経歴の見方の甘さに気づかされたというか……

内定をいただくことになる会社の面接においても、担当してきた案件規模の小ささなど経験の乏しさは指摘されたのですが、フリーランチとともに進めた職務経歴書直しの過程においても、自分の経歴をそのまま並べるより「もっとKさんの本質的な良さを伝えることを目指しましょう」というアドバイスがありました。

自分の経歴を振り返ると「地元ゼネコン会社 → ハウスメーカー → CM会社」という流れになり、これを取引形態で考えると「BtoB企業 → BtoC企業 → BtoB企業」となります。

この点について、経歴のなかに「BtoC企業」を一度はさんでいることがキャリア構築のストーリー上で矛盾を生んでしまっているという指摘がありました。

面接を受ける会社がCM企業つまりBtoB企業であるために、BtoC企業としての経歴は控えめにし、BtoB企業としての経歴にフォーカスしています。そのように職務経歴書のなかで、どこを狙って表現を変えるかという「ターゲティング」についてしっかり考えたことが初回と完成形での大きな違いです。

※「ターゲティング」とは、狙うべき標的を定めること。職務経歴書作成におけるターゲティングでは「どのような対象者に」「何を伝えたいのか」ということをちゃんと設定して的外れにならないように、という意識が大切です。

図版_記事2−2

タナカ:たしかに面接をする会社の特性と自分の経歴を照らし合わせて、面接先にしっかり響くよう、「ターゲティング」の考え方を表現方法に持ち込むことは大切だと感じました。

個人的には過去に大手転職エージェントを介して転職をしたことがあるのですが、当時を振り返るとここまでしっかりとした書類整備は行いませんでした。

これは大手転職エージェントの担当者によっても異なるかと思いますが、僕の場合は当時の転職エージェントに職務経歴書を提出したとき、いくつかの専門用語が伝わらなくて共通言語としてそもそも成り立たなかったり、それらを何故かこちらが説明するみたいな場面もあって少し不安を感じたことを覚えています。

今思うと大手転職エージェントとフリーランチとの違いは、「担当者が受け持つ相談者の数」と「建築・不動産業界への理解度」でしょうか。少数の相談者に対してじっくり向き合うことと深い業界知識が組み合わさることで、今回のKさんのように職務経歴書の作り込みも徹底して行われるのだと感じました。

完成した職務経歴書で面接に臨んだとき、面接先にちゃんと響いたと感じたり、しっかり作り込んで良かったと感じたシーンはありましたか。

Kさん:まず今回の職務経歴書作成において、効果的に自分の経歴をアピールすることを徹底しています。それにもとづいて実際に書類を作成していくことで、自分の経歴でアピールすべき部分が頭のなかでも整理されたので、実際の面接でも相手に響く自己PRができたと思います。

過去の面接を振り返ると、事前準備が足りずに自分の魅力を上手く伝えきれなかったり、経歴表現と面接先企業の業務との間に生じた矛盾によりミスマッチに至った経験がありましたが、そのようなことも避けることができました。

これは何より職務経歴書の作成を通して自分のアピールポイントをしっかり理解できていて、どのようにターゲティングの軸を置くかが考えられていたからだと思います。

また、面接官の方が事前に職務経歴書を読んでくれていて、それによっても面接が円滑に進んだと思うのですが、おそらく当初の職務経歴書のボリュームや表現方法ではそもそも事前に読んでもらったり理解してもらうというのは難しかっただろうなと思います。

聞き手はこう見る

今回は約2週間をかけて職務経歴書を作り込みましたが、この修正期間については相談者の状況によってさまざま。通常は1ヶ月ほど時間をかけるものですが今回はスケジュールがタイトであったため、最も効果が期待できる部分に的を絞って修正し、Kさんの本質的な良さを伝えることは担保しつつ短い期間での修正を行いました。
転職活動というプロジェクトを進める上での職務経歴書は、相談者にとって武器のひとつ。効果的に自分の魅力を伝えられるように整備された職務経歴書は面接の「場を支配できる」といっても過言ではありません。
Kさんの場合は多岐にわたる経験のなかで、それぞれの担当案件について「どのように努力をしてきたのか」ということを表現し、転職先の企業に対しどういった点で貢献できるのかを的確に伝えるという意思をもって修正をしています。転職先の企業が知りたいのは「何をしてきたか」以上に「どのように働いてきたのか」ということ。そのツボをおさえた職務経歴書を作ることが大切なのです。

執筆

田中 友貴

田中 友貴(タナカユウキ)

一級建築士、ライター。1988年岐阜生まれ。オフィス構築を手がける企業での施工管理・プロジェクトマネジャーを経て、エアラインの建築部門にて航空施設を主とした建築プロジェクトマネジャーを経験。今は「建築」の間口を広げるためにできることを淡々と。ドーナツをこよなく愛しています。