馬場正尊「エリアリノベーション」に学ぶ建築・不動産の新しい働き方

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今回は馬場正尊+open Aの「エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ」をご紹介します。
これまでの「まちづくり」という言葉が持っていた上からの計画による画一的な開発ではなく、まちに住む人たちがネットワークを組み小さなエリアからまちを活性化する手法について、日本各地の小さなエリアで起きている動きを取材して生まれた一冊です。

エリアリノベーション:変化の構造とローカライズ
馬場 正尊 Open A 嶋田 洋平 倉石 智典 明石 卓巳 豊田 雅子 小山 隆輝 加藤 寛之
学芸出版社
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エリアリノベーションを理解するための2つのキーワード

著者の馬場正尊さんは、早稲田大学で建築を学んだ後、広告代理店に入って大型イベント制作を手がけ、メディアの側からも建築デザイン誌「A」の編集を行ってきました。

その後建築設計事務所「open A」を立ち上げ、東京の日本橋・神田にまたがるCET(Central-East Tokyo)エリアでのリノベーション物件開発とイベント運営の経験から「東京R不動産」でネットメディアを活かした味わいある物件紹介を広めていったという、建築設計・広報・不動産・事業運営という多分野からまちを見つめ、多数の事業に自ら関わってきた方です。

様々な立場に立ってまちを見ているからこそ、日本各地で胎動しているリノベーションによるエリア開発の動きの底に流れる基本的な思想に気付くことができたのだと感じます。

その馬場さんが考える「エリアリノベーション」とはどのような特徴をもつ活動なのでしょうか。

馬場さんによると、エリアリノベーションが活発な地域では2つの大切な考え方を持っているそうです。それをこれからご紹介いたします。

エリアリノベーションは、「小さなエリア」からはじめること

まずはまちの中の小さなエリアを設定し、その場所の価値を上げるための取り組みを始めることが大切だと本書では述べています。

これは民間の手法ではこれまで続けられてきたことではありますが、エリアリノベーションという言葉で新しい時代の「まちづくり」を考える時には少し意味合いが変わっていると思います。

投資する範囲を集中することによって小さな範囲だけでもまちのイメージを上げることができ、そのイメージの良さをほかのエリアにも広げるということがまち全体にとって必要となってくるのですが、それ以上にエリアの範囲を限定し、様々なエリアがそれぞれの特性を活かした開発をすることを本書では強調しているように感じました。

特に「エリアを守る」ことの重要性について触れていたことが興味深かったです。ある一定のエリアの価値を上げる事に成功しても、その範囲を無計画に広げてしまってはエリアの性格を保つこともできなくなり、結局は地域独自の価値を失ってしまうということが述べられています。

小さなエリアはその中のプレイヤーによって盛り上げていき、近くても違うエリアはまた違う人材によって価値を上げていくことでしか持続的に地域の価値を生み出す仕組みは生まれないということです。

もちろん近くにいるプレイヤー同士の情報共有などは重要ですが、それよりも自分が住んでいる場所、思い入れのある場所に注力すること同じ場所を愛している仲間同士がチームを組むことによってより多くの拠点を生み出す仕組みをつくることが大切なのだと感じました。

賑やかな市場

まちに住む人たちのネットワークから生まれる力を信じること

これまでの都市計画は長期的なマスタープランとして行政機関が決定し、それに合わせて設計者が計画を立ててきたという歴史があります。

対して、これからのまちの開発では空間ができるプロセスを逆転して考えてみることが重要だと主張しています。

実際に本書で取り上げられている実例の中では、「計画する→建てる→つかう」という流れから、「つかう」立場の人が先に立ってプロジェクトを生み出すという変化が見受けられます。

そして、それと同時にこれまでは計画する立場、つくる立場、使う立場が細分化されていたのが、融合していくということも述べています。小さな事業が同時に進むような状況のなかで、計画しながらつくる、つくりながら使って考えるというプロセスの柔軟化がこれから一層進んでいくという見方をしています。

そして、そのようなプロセスの中からまちをつくるプレイヤーのネットワークが生まれ、同時多発的にプロジェクトが生まれてくるということからこの構造をネットワーク型の計画と呼んでいます。

と言っても、全てが無計画になり秩序のない開発が進むのかというとそうではありません。あくまでこの手法が成功しているエリアで共通しているのは、小さなエリアを定めてその中では多くのプロジェクトが並行して行われますが、そのエリアの選定や、改修から事業化までのスキームをつくる中には綿密な計画性を持っているということです。

そのエリア選定や事業化の計画に対して多様な事例を引きながら未来を見据えた計画を立て、その土地に合わせてローカライズされた内容を提示できることがエリアリノベーションをすすめる立場の役目といえます。

エリアリノベーションで必要になる建築・不動産・グラフィック・メディアの4つのキャラクター

エリアリノベーションを行っていく中では計画する立場、創る立場、使う立場が融合していくことが大切だということを先ほど説明しました。

とは言え1人の人間で全ての立場を完璧にこなすことはできません。まちに新しい場をつくるためには、その場所に関わる人たちがこれまで得てきた職能を活かすことが重要になります。さまざまな職能を持った人たちが有機的につながることが大切ですが、中でもエリアリノベーションをすすめるために大切な4つのキャラクターがあると本書では述べています。

その4つのキャラクターとは

・不動産キャラ/調整する人

・建築キャラ/空間をつくる人

・グラフィックキャラ/世界観をかっこよく発信する人

・メディアキャラ/情報を効果的に発信する人

です。

ここでそれぞれの職業に「キャラクター」と名づけているのには2つの理由があります。

ひとつは前にも述べたようにあくまで専門的で固定化した職業ではなく、同じ人が複数のキャラクターを持つこともあり、またまちで起こる様々なプロジェクトの一つ一つでも立ち位置が変わる事もあるという柔軟性があるからです。

もうひとつは既存の不動産屋・建築設計者などといった仕事のあり方とは少し異なる方向性で、これまでまちに残ってきた建物・資産を大切にし、活かしていくための取り組みをしなければいけないということが言えます。

建築・不動産の職能を活かしながら、これから地域で生きる働き方を知るための一冊

商店街の様子

本書はすでにまちづくりのあり方を変え、小さなエリアからまちを活気づけている場所を巡って、その中から見えてきた基本構造を描くという形で書かれた本です。

この中では東京都の神田・日本橋にまたがるCET(Central-East Tokyo)エリア、岡山市の問屋町、大阪市の阿倍野・昭和町、尾道市の旧市街地、長野市の善光寺門前、北九州市の魚町というそれぞれの市内でも小さなエリアを取り上げています。

それぞれのエリアで、取り組むプレイヤーの構成や行政との関わり、そしてどんな性格のエリアとして成長するかという未来像は異なっていますが、エリアリノベーションに関わる人たちに共通する思いとしては、これまで都市が積み重ねてきた資産にもう一度目を向け、その資産価値を向上させることで地域の経済循環を取り戻し、未来に残るまちにしたいというものがあります。

このようなまちをつくる新しい事例の奥にある基本理念を理解して、自分たちが関わる場所でどう活かしていくか。働き方を変えるためのさまざまな選択肢を考えたい方に『エリアリノベーション:変化の構造とローカライズ』をおすすめします。

建築キャラ実践編は「リノベーションによるまちづくりで、「建築キャラ」が地方を拠点に楽しくまちを盛り上げる方法とは?」をお読みください。

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