スタッフに1日8時間を超えて働いてもらうためには、「三六協定」と呼ばれるいわゆる残業労働についての取り決めをスタッフの代表と話し合って決定し、労働基準監督署に提出することが必要になります。
三六協定を定めることには難しそうなイメージがあります。社会保険労務士に三六協定の作成を依頼することもできますが、3つのポイントをおさえれば社会保険労務士に依頼することなく三六協定を労働基準監督署に提出することができ、コストをおさえることができます。
この記事は、建築設計事務所の経営者・所長向けに、専門家の手を借りずに簡単に三六協定を作成するためのポイントをご紹介します。
※2017年2月14日追記(2016年8月9日公開)
三六協定の取り決めで大切な3つのポイントを確認しよう
設計事務所が三六協定を作成する際に、経営者としておさえておきたいポイントは以下の3つです。
1.1ヶ月の残業時間の限度は45時間以内とすること
2.限度を超えた残業時間を許可する「特別条項」を定めること
3.深夜残業が常態化しないようにする仕組みを決めておくこと
それぞれについてご説明いたします。
1ヶ月の残業時間の限度は45時間以内に
三六協定では、労働者の職種ごとに残業が必要になる理由と1ヶ月あたりの残業時間の限度を定めることが必要となります。
限度となる時間についても、スタッフと話したのであれば何時間でもいいというわけではなく、一定の限度が定められています。厚生労働省によって1ヶ月あたり45時間まで、1年間で360時間までが限度と定められています。
残業時間の限度を月45時間とする場合、1ヶ月22日勤務であれば1日あたり約2時間となります。
18時に定時が終了する会社の場合は毎日20時頃まで残業していると月45時間となります。
限度を超えた残業時間を許可する「特別条項」
ただし、実際に仕事をしていると、とてもではないけど普段の残業時間の限度内では納期に間に合わないという場合もあるでしょう。
普通に仕事をしていたのでは間に合わないというときのために、三六協定では「特別条項」を決めて1ヶ月の残業時間の限度を一時的に引き上げることが可能です。
また、特別条項を適用するための手続きについてもスタッフの代表との話し合いによって定める必要があります。
例えば「特別条項を適用する時は経営者からスタッフへ紙面で通達する」などと三六協定に記載しておくとよいでしょう。
労働基準監督署の監督官に聞いたところでは、特別条項を適用する手続きさえ整っていれば、特別条項を適応するときにその都度労働基準監督署に届け出をする必要はないということでした。
あくまで三六協定に定めた方法でスタッフに通告するなり、その都度協議するなりといった手続きが取られていればよいようです。
特別条項によって通常の残業時間よりも長時間働く場合でも、一定の限度を設けることが求められます。目安としては1ヶ月あたり60時間が限度であるとされています。
厚生労働省では残業時間が1ヶ月あたり100時間を越える場合、また1ヶ月あたり80時間を越える月が6ヶ月以上続く場合には、長時間労働が脳血管疾患や心疾患を引き起こす強い要因になると認定しています。
スタッフの健康にも配慮し、会社としても管理責任を問われることのないよう基準を定めることが重要です。
長時間労働が常態化しない取り決めを定める
「特別条項」による限度を超えた残業はあくまで臨時的なものとし、長時間労働が常態化しないような仕組みを作ることも求められます。
例えば深夜残業を行うときには上司からの許可が必要とすることや、月に何回までという制限を設けるなどの仕組みを設けることが重要です。
また「特別条項」によって残業時間の限度を越えることができるのは年間に6回まで、つまり最長で6ヶ月間とされています。
長時間の残業が常態化しないようにルールを定め、スタッフと共有することが大切です。
スタッフに残業してもらうために必要な「三六協定」とは?
労働基準法では、原則として1日8時間、一週間に40時間を超えて労働させることを禁止しています(労働基準法32条)。この法定時間以上に残業をさせる必要がある場合は「三六(さぶろく)協定」と呼ばれる、残業時間を認めるための会社と労働者との間の取り決めを結ばなければいけません。労働基準法36条に定められているため「三六協定」と呼ばれます。
この協定を結ぶ際には、会社の全従業員の過半数が加入している労働組合や、組合がない場合には従業員の過半数の代表者と残業時間の限度について話し合うことになっています。「三六協定」が結ばれていなければ、会社は一日8時間までしか働かせることはできません。
例えば経営者も含めて社員が3名しかいない建築設計事務所では、スタッフの代表1人が三六協定の内容について了解したところで押印またはサインをして三六協定が締結されます。
三六協定の有効期間や閲覧ルールは?
三六協定は実際にスタッフとの合意が行われてから1年の間効力をもつとされています。その間に協定にサインをしたスタッフが退職した場合でも無効になることはありませんが、次の年は新たなスタッフの代表者と協定を結ぶことが必要となります。
スタッフとの間で定めた三六協定の内容は全てのスタッフが理解できるよう周知する必要があります。三六協定の届出用紙は就業規則と同様に保管し、詳しい内容についてスタッフが確認したい場合は閲覧できるようにすると良いようです。
三六協定自体は少なくとも1年に1回労働基準監督署に届け出をする必要がありますので、三六協定の期限が切れないように提出日を控えておき、1年に1回チェックするようにしましょう。
時間外の残業が必要になる具体的な理由を記載
三六協定の中では残業の必要がある具体的な職種と、必要になる残業時間を具体的に定めることが求められます。締め切りのある作業で直前に仕上げなければいけない仕事が多いとか、季節によって仕事量が増減して、かきいれ時にたくさん仕事をしなければいけないということが考えられます。
例えば、建築設計事務所の場合では
・提出物や模型の作成などに携わる設計スタッフがコンペやプレゼンなどの納期に間に合わせるために1ヶ月あたり45時間残業する必要がある
・経理担当のスタッフが月末の請求処理など作業のために1ヶ月あたり20時間残業する必要がある
という風に残業が必要になる職種・理由と必要な残業時間を定めることになります。
改めて三六協定の取り決めで大切な3つのポイントを確認
三六協定で会社と働き手の間で取り決めている事について、ポイントをおさらいすると、
1.1ヶ月の残業時間の限度は45時間以内とすること
2.限度を超えた残業時間を許可する「特別条項」を定めること
3.深夜残業が常態化しないようにする仕組みを決めておくこと
この3点をおさえておくことが必要です。
建築設計事務所を経営する上で、スタッフに残業してもらうことが必要になることは多いと思いますが、気持ちよく働くことができるルールを定めていただきたいと思います。