建築設計業界の労働トラブルを無料相談できる最初の窓口、労働局活用ガイド

建築設計や建設業界の企業で働く中で起こる労働トラブルには残業・給与・解雇・パワハラ・セクハラ・介護休業……などなど様々な原因があります。何らかのトラブルが発生した時に、それを解決するために公的機関に相談することができます。

しかし、専門外の窓口に申し出てしまって時間を無駄にしたり、ちゃんと解決できないのではないかと落ち込んでしまったりしていては解決するどころか泣き寝入りしてしまう事にもつながりかねません。

日本の労働行政は厚生労働省によって取りまとめられていますが、その中でもトラブルの原因の種類によって相談する窓口が異なるのです。今回は厚生労働省が各都道府県に設置している「労働局」についてご案内します。その中でも特に「総合労働相談コーナー」と「雇用均等室」という2つの機関についてご説明したいと思います。

建築業界で働くあなたにとって、「総合労働相談コーナー」は最初の相談先

特に小さな建築設計事務所や工務店などでは、規模が小さいため労働組合が設置されていないことも多く、人間関係も絡んで問題が複雑になり、どのように解決すればいいのか分からないということも聞きます。

どこに相談すればいいのか分からないこのような問題を解決していくために、最初に相談するべきなのが労働局の「総合労働相談コーナー」です。各都道府県に設置されており、電話での相談ダイヤルと、実際に面会して相談できる窓口があります。例えば東京では東京労働局が九段南の東京労働局総合労働相談コーナーを始め、都内20箇所に相談コーナーを設けています。

この総合労働相談コーナーの特徴としては、労働に関する悩みや相談であればどんなものでも対応するというところにあります。
通常はこの先で述べる「雇用均等室」では「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」「パート労働法」、労働基準監督署では「労働基準法」といったように、担当する部署によって受け持っている法律の範囲が定められているものなのですが、総合労働相談コーナーではその範囲に関係なく、職場の労働問題全般に対して総合的に話を聞いてくれるようになっています。

社内での待遇に違いがあり、さらにいじめを受けていて出社できなくなった、という話であったり、長時間労働が続いたことで心身に支障がでてしまったと、という話であったりと労働問題は一つの原因だけにとらわれていると解決しづらい問題がほとんどです。
またその解決法も職場の内情によって様々なパターンが考えられるので、個別に相談し、解決法を導くことが重要になります。

メリットは無料で専門家に相談できること

総合的に労働問題を解決したいと考える場合、特定社会保険労務士や弁護士といった労働法に精通した民間の立場の方達に相談することも考えられますが、相談に対応するとなると有料となります。それに対して総合労働相談コーナーでは無料で社会保険労務士の資格を持つ労働局職員に相談に乗ってもらえるのも重要なポイントです。

どんな解決法があり、より具体的な解決策を取るためには次にどこに相談するべきかという事が分かる、最初の手がかりとして覚えておきたい窓口です。

労働トラブル解決へ、自主的な取り組みを促す仕組み

総合労働相談コーナーで相談する中で、解決に向けてのアクションも進めていくことができます。具体的には2つの手段があります。

都道府県労働局長による助言と指導

都道府県労働局長が問題点を指摘し、その解決策を直接示すことで労働者と企業の双方に自主的な解決をすすめる方法です。具体的に法にふれる内容の場合はその法にのっとった行政指導がなされますが、法にふれないまでも改善点がある場合に提示されるもので、強制力はありません。

紛争調整委員会によるあっせん

また、労働者と企業の間に第三者を交えて話し合いをすることによって円満な解決を図る方法もあります。この場合のメリットとしては、

  • 1.費用がかからない
  • 2.手続きが簡単で速い
  • 3.労働者と企業が合意に達した場合、その内容は「和解契約」の効力を持ち、合意内容が守られる
  • 4.話し合いの内容は非公開なので、会社の信用問題に繋がることもなく、労働者のプライバシーも守られる

という4点があります。ただし企業側が話し合いの提案に乗らない場合もあるので、その場合はまた違う解決法を取る必要がでてきます。

これらの2つの解決策は、法律に基づく強制力を持つ解決策ではないですが、専門家が仲介し職場と働き手との間でのトラブルを手早く収束へと導くことができます。

あっせんによって解決できない場合は労働審判という司法手続きによって解決する方法もありますが、あっせんに比べて解決にいたるまでの費用がかかるため、会社にとってもあっせんによって和解する方が得になります。
このような事を理解した上で、解決へのカードのひとつとして手元に持っていると非常に余裕が持てることでしょう。

労働局は出産・育児の際に起こりやすい労働トラブルに対応できる

また労働局で取り扱っている分野で特徴的なのが、男女の雇用機会均等に関わる問題です。特に出産や育児といった場面に対応しているところを覚えていただけるととても役に立ちます。

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建築設計に関わっている女性にとっても、出産や育児とキャリアの両立は非常に関心の高い話題です。実際に建築設計事務所勤務で育児休業などを取得したいと考えていても、育児休業取得後に違う職場への配置転換を提示されたり、「同じ形で働き続けることはできない」と言われて退職を暗に迫られたり…、と出産後も同じ職場で働き続けたいのにそれがかなわないということもよく聞きます。

またこの問題は女性だけでなく、育児に真剣に取り組みたい男性にとっても育児休暇を取った後同じ職場で働きつづけることができないなどの不利益を被ることもある大きな問題です。

このような問題の相談先として、労働局内に「雇用環境・均等部」という行政機関が設置されています。

この「雇用環境・均等部」では「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」などに対応した組織を持っていますので、それぞれの法律に触れる問題に対して、具体的な解決策を提示することができるようになっています。具体的な内容について紹介いたします。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法の中では、妊娠・出産に際して労働者が不利益を被ることがないように様々な規定をしています。いくつか特徴的な内容をまとめます。

  • 1.解雇制限:妊娠したこと、出産したことや、出産に際して労働負担を軽減させる措置を求めることを理由にして解雇することはできません。また産前産後休業期間とその前後30日間は、本人に懲戒理由がない限り解雇することはできません。
  • 2. 不利益取り扱いの禁止:企業が労働者を妊娠・出産に関わる理由から不利益取り扱いをすることは禁止されています。
  • 3. 健康管理措置:企業は妊産婦が自身や子どもの健康検査を受けるために必要な時間を確保しなければいけません。また、時差通勤や通勤時間を短縮したり、休憩回数を増やすなどの措置を取るなど妊産婦の健康管理に気を使う措置を取ることが求められます。
  • 4. 軽易業務への転換:企業は妊婦が求める場合は軽易な業務へ転換させなければいけません。
  • 5. 時間外・休日・深夜業の規制:企業は妊産婦が求める場合は時間外労働・休日労働・深夜労働をさせてはいけません。
  • 6. 産前産後休業:企業は産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内の女性が求める場合には休業させなければいけません。また産後8週間までの女性も就業させてはいけません。

これらの内容に触れる場合は法律違反となるので、雇用環境・均等部は企業に対して出産を理由とした解雇を撤回する事や、労働時間の規制を守らせるなど労働者の権利を認めるよう指導することになります。指導を行う際は具体的に法に抵触する証拠などが必要となりますので、その点については改めてどのような手続きが必要になるかご説明したいと思います。

育児・介護休業法

育児・介護休業法では、1歳に満たない子を養育する必要がある労働者や、要介護状態にある家族を介護する必要がある労働者に対して、企業が休業を認めるや労働環境についての配慮を行う事を求めています。ここでは育児についての内容について簡単にご説明します。

  • 1.育児時間:1歳未満の子を育てる女性が求める場合には、法定の休憩時間以外に1日2回最低30分の「育児時間」を与えなければいけません。
  • 2. 解雇その他不利益取り扱いの禁止:企業が労働者が育児に関わる休業や休暇、労働条件の軽減を求めることを理由として解雇したり不利益取り扱いを行うことは禁止されています。
  • 3. 育児休業:1歳未満の子を育てる男女は子が1歳になるまでの間育児休業を取ることができます。父母共に育児休業を取る場合は1歳2ヶ月になるまで休業を取ることが認められています。
  • 4. 子の看護休暇:小学校入学前の子を養育する労働者が、子の負傷・疾病の看護、また予防接種や健康診断を受ける際に1年度5日まで休暇を取ることが認められています。
  • 5. 短時間勤務措置:3歳未満の子を養育する労働者が求める場合、企業は1日6時間の「短時間勤務制度」を適応することを義務付けています。
  • 6. 所定外労働の免除:3歳未満の子を養育する労働者が求める場合、使用者は残業(所定外労働)を免除しなくてはいけません。
  • 7. 時間外労働の上限規制:小学校入学前の子を養育する労働者が求める場合、法定外労働の上限は1ヶ月あたり24時間、1年あたり150時間となり、この時間を超えて働かせることはできません。
  • 8. 深夜業の免除:小学校入学前の子を養育する労働者が求める場合、企業は深夜業務を免除しなくてはいけません。

男女雇用機会均等法と同じく、これらの内容に触れる場合は、企業に対して育児休業を取らせるよう指導したり、育児休業後元の職場に復帰できるようにするなどの行政指導が行われています。
労働基準監督署が労働基準法に違反している企業に対して行う指示に比べ、指導を守らなかった時の罰金や禁固などの刑罰はありませんが、指導勧告に従わない会社に対しては社名の公表や過料が徴収されるなど強い効果を持っています。

このように、出産、育児に対しては労働法によって労働者を保護する仕組みが整えられてきています。育児休業については男女共に取れるように整備されるなど、今後も子どもを育てながら働くための環境は法律面で整備されていきますが、途上であるだけに企業が理解しきれていない部分も多くあります。

出産、育児に関わることで疑問に思われている事があれば、気軽に雇用環境・均等部に相談して、企業の対応が正しいかどうか調べてみてください。

また介護が必要な家族が身内にいる方も育児休業と同じく休業後の解雇や降格などを行わないよう指導しています。その他パートタイム労働者の労働環境について差別的取り扱いに対する相談など、雇用環境・均等部では弱い立場におかれがちな働き手の相談に全般的に対応できるようになっています。

建築業界で働くあなたにも、労働局への相談は役に立つ

労働局で取り扱っている労働トラブルへの対応は、複雑なものや個人的な人間関係に関わることでも総合的に応じてくれるものとなっています。
さらに雇用環境・均等部のように働く女性の悩みに全般的に対応してくれる部署もありますので、労働環境などでどこに相談したら良いのかわからないという場合はまず労働局に相談すると、具体的な労働問題をあなた自身がつかむことができるようになれます。

全般的な労働環境については公的機関に相談することが大切ですが、建築設計事務所や工務店など、建築関連業種に関わる働き手の具体的な相談については業界の状況をよく知る立場からのアドバイスが役立つ場合もあります。

フリーランチのキャリア相談では、建築関連業種をよく知る立場からさまざまな問題に関するご相談も受けつけていますので、こじれる前にお気軽にご相談ください。

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