あなたの会社では社員の一日の労働時間は何時間でしょうか?
一日に社員が働く労働時間は8時間までと労働基準法で定められています。
これに対し、設計事務所、企業側はスタッフに残業してもらうためには「三六協定」と呼ばれる協定をスタッフとの間で結ぶ必要があります。
例えばこれから建築設計事務所を開設し、スタッフに十分な力を発揮してもらい、法を守りつつ気持ちよく働いてもらうためにはどうすればよいか。
今回は具体的にどのようなポイントに気を配らなくてはいけないのか、どのような内容の協定を結べば経営側もスタッフもメリットを感じてリスクも減らすことができるのかを「三六協定」の中身に触れながら詳しく解説したいと思います。
※2017年2月1日追記(2016年9月26日公開)
三六協定なしではスタッフに残業させることはできない
冒頭でも述べたとおり(労働基準法32条によって)、事業所がスタッフに1日8時間、1週間40時間を越える労働をさせることは禁止されています。
もしこの条項に違反している事で労働基準監督署の立入検査を受けた場合は、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金刑となる可能性があります。
では、このようなルールがあるのになぜほとんどの事業所、企業ではスタッフに対して残業を行わせることができるのでしょうか。
それはスタッフとの間で残業時間についての基準を定める協定を結ぶことで、その協定の範囲内であれば残業を行わせることができることになるからです。
その協定こそが労働基準法36条に定められている条項であり、「三六協定」と呼ばれる所以です。
つまり、設計事務所で1人でもスタッフを雇っていて、そのスタッフに残業してもらう場合は、「三六協定」を締結していなければ労働基準法違反になるのです。
設立したての建築設計事務所の場合は面倒に感じてしまうかもしれませんが、必ず押さえておきたいポイントだといっても過言ではありません。
三六協定を結んで労働基準法違反を未然に防ごう
三六協定を結んだ場合、その内容を労働基準監督署に提出する義務が会社には発生します。
しかし、中小企業ではこの三六協定の存在や提出義務を知らない事業所が多く、平成25(2013)年度に厚生労働省によって実施された労働時間等総合実態調査では、三六協定の存在を知らなかったという事業所が35.2%、提出を忘れていたという事業所が14.0%あり、ほぼ半数が提出していないというデータが発表されました。
また、このデータから「それならば三六協定を提出しなくても労働基準監督署に見つからなければ大丈夫だ」と考えるのは非常に危険と言わざるを得ません。
三六協定を提出していないということは、残業時間の管理や残業代の支払いについても基準を定めていないということになるため、例えば設計事務所で残業代の未払いについてスタッフから訴えられてしまった場合には労働基準監督署から非常に厳しい調査を受け、未払い分と認定された残業代を支払わなければいけないという大きな過失を背負ってしまうということになります。
では、このようなリスクを事前に回避するために、三六協定でどのような内容を結び対応するべきか、結ぶことでどのようなメリットがあるのかを次の項目でご紹介いたします。
三六協定を順守し、スタッフに納得して残業をしてもらう3つのポイント
三六協定でスタッフとの間に決めなければいけない内容は様々ですが、ここでは三六協定を遵守し、スタッフにも納得して残業してもらうために必要な内容を3つご紹介します。
1.残業を行うための具体的な理由を定めること
1日に8時間という法定労働時間を超えて働くということはあくまで例外として認められていることであり、なぜそこまで働かせなければいけないのかという理由を説明できなければいけません。
この時、三六協定の届出書式には残業をさせる具体的な業種と業務の内容を記載することが必要になります。
そうすることでその業種と仕事内容に対して想定される残業時間の範囲内で働く、残業を行えるようになるのです。
2.残業時間の制限に合わせた設定
きちんと業種と残業をさせるための具体的な理由があったとしても、際限なく残業が行えるというわけではありません。残業時間の長さは一定の規制があります。
残業時間の基準については以下の表の通りとなっています。
期間 | 1週間 | 2週間 | 4週間 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 1年間 |
限度時間 | 15時間 | 27時間 | 43時間 | 45時間 | 81時間 | 120時間 | 360時間 |
主に「1ヶ月45時間、1年間で360時間」という基準を覚えておくとよいでしょう。
この基準を超えて働かせる場合、スタッフが病気や精神疾患にかかり、それが労災として認定された場合には、会社側が非常に大きな責任を負うことになってしまうのです。基準は協定として残した上で、きちんと基準の時間内で仕事を終えるようコントロールすることがとても重要なのです。
3.「特別条項」を上手に活用し繁忙期に備える
とは言え納期が迫っている場合や仕事が重なって非常に忙しい時期にはこの基準でも足りない、この基準では補えないいう場合も出てきます。
そんな時には年間に数回この限度時間を越える例外をつくることができます。
例えば「受注が集中して納期が迫っている場合に限り、スタッフとの協議を経て年に6回まで1ヶ月60時間、年間420時間まで残業時間を延長することができる」のです。
但し、これは一方的に決めることはできません。あくまでスタッフとの協議をして了解を得た場合に有効となります。
また、他にも注意しなければいけないことが2点あります。
一つは特別条項で残業時間の延長ができる期間は最長でも年に6ヶ月分までとなっていることです。
もう一つは残業時間の延長が恒常的にならないよう、理由のない時期は残業時間をセーブしなければいけないということです。
これはあくまで一時的な対策ととらえ、スタッフの健康にも気を配ることを欠かしてはいけません。
以上にあげた3つのポイントをきちんと押さえて三六協定を作成しましょう。
そうすれば事務所は業務が滞ることが少なくなりますし、もちろんスタッフも納得することで気持ちよく残業が行なえますし、双方にとってメリットとなります。
是非、三六協定を作成し、労働基準監督署に届出を行いましょう。
ちなみに三六協定の書面は電子申請システムから作成し、労働基準監督署に届出をすることも可能です。
三六協定の締結は、経営的にもメリットがある
建築設計事務所を開設したばかりでまだまだ小さな組織の段階では、仕事量が安定せずに、突発的に忙しくなることはよくあります。
とはいえど、この時に三六協定を結んでいなかったことで、労働基準監督署から未提出を問われ、残業代の未払いも疑われて調査を受けてしまうと時間のダメージはおろか金銭的にも大きなダメージを受けることもありえます。
こうならないためにもスタッフを雇う最初の段階から就業規則の整備と三六協定を締結し、理解、納得していただいた上で働いてもらうしくみづくりが重要です。
更に三六協定を結ぶ過程で、残業の基準についてスタッフとしっかり話し合うことで、あなたの設計事務所なりの方針を固めることもできます。
メリハリをつけて働くという方針を事務所もスタッフも共有することで、お互いのモチベーションアップにもつながりますし、ひいては事務所の人件費も抑制できるのです。
無駄な残業はスタッフの健康やモチベーションを損なうだけでなく、割増賃金が適用させることで人件費が増大し、設計事務所の経営を圧迫します。
三六協定の見直しを機に、設計事務所としての働き方をもう一度考えてみてはいかがでしょうか。
フリーランチのキャリア相談では、設計事務所の運営についてのご相談もおうけしていますので、少しでもお悩みがあればお気軽にご相談ください。