建築系ブラック企業の長時間労働とパワハラで逃げる力を失った話

ブラック企業という言葉が社会に浸透して久しいですが、建築業界その例外ではありません。特に、小規模な建築設計事務所の中には、アトリエのフリをしたブラック企業が存在します。

私がかつて入社した設計事務所は典型的なブラック企業でした。いわゆるアトリエ事務所の厳しさを覚悟をして入社しましたが、そんな次元とは全く別物の超ブラック生活です。

本記事によって当時の実体験やブラック設計事務所の問題点を共有し、手遅れになる前の次の一手が打てる手助けになれば幸いです。

※2017年1月20日追記(2016年10月11日公開)

私はブラック建築設計事務所に入社してしまった!

私が働いていたブラック建築設計事務所について簡単にご紹介します。業界である程度名の通る設計事務所で、専門誌にも作品が掲載される事務所です。

ただし事務所規模は小さく、私が所属する前後は所長の他スタッフが2〜1名という体制で推移していました。

実際、私が所属した期間の大半は所長と二人きりです。そして、数々のパワハラや理不尽な扱いを受けながら、オープンデスクの学生や最低賃金以下の時給のアルバイトの手を借りるような形で、昼夜問わず社会性のある建築設計に取組んでいました。

ブラックアトリエ事務所に入社

これがブラック建築設計事務所の実態だ!私が経験したパワハラや理不尽な扱いを大公開!

私が受けた具体的なパワハラや理不尽の数々を共有していきたいと思います。情報を整理してお伝えするために、厚生労働省が定めたパワハラの指針に沿って私の体験をまとめました。

厚生労働省の職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ内の資料1に当る、「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」では、別紙、職場のパワーハラスメントの概念と行為類型にてパワハラを下記のように定義しています。

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。(「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」別紙より引用)

その上で、典型的なパワハラを下記の6つの型に分類しています。これらを踏まえ、私がブラック建築設計事務所で実際に受けたパワハラや理不尽な扱いをご紹介しましょう。

身体的な攻撃

身体的な攻撃は暴行や傷害に関するパワハラの事項です。

意外な事ですが、私自身は直接殴られたりした事はありませんでした。しかし、たまたま避けただけで、物を投げつけられたことは当然あります。ちなみに、事務所の歴史の中では暴行はあったと聞いています。

私が知っている元所員の方は殴り蹴られるような目にあったようで、その時に負った傷は、何かあった時の為に証拠として記録に残したそうです。

当時の話を聞く限りでは、反省、と言うよりは自身が負う社会的リスクを感じたようで、直接の暴行は減ったそうですが、パワハラが減ったわけではありません。

精神的な攻撃

脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言に関するパワハラの事項です。

これはもう日常茶飯事でした。

  • どんな些細な事でも所長の癇に障れば最低でも1時間、長ければ3~4時間怒鳴り続けました。

嘘のようですが本当の話です。これが原因で精神疾患に掛かったり、失踪した先輩もいたようです。

ちなみに、内容はせいぜい15分もあれば十分な物ばかりで、明らかに教育的指導からは逸脱していました。

結果、業務が圧迫され徹夜を強いられる事も多々あり。これが連日続いた時は本当に疲弊しました。一度パワハラの証拠として、その様子を密かに録音した事があります。3時間を超えるその音声データは命綱として今も手元に残っています。

  • 所長が許可した休日にも関わらず、実際に休むと理不尽に怒鳴られる事がありました。

前日に笑顔で休日の許可を与えていたとしても、関係ありませんでした。怒鳴られます。ちなみに、実際は休まずに午後自主的に出社したにも関わらず異常な剣幕で2時間程怒鳴られました。

もちろん、ただでさえ週休二日制を謳歌できる職場ではありませんでした。徹夜込みで数週間連続勤務もザラでしたが、その上で出た許可に対してであっても、読み間違えると長時間怒鳴られました。

私を含めて、歴代所員の方々も、休みが沢山あると思ってアトリエ事務所に来たわけではないと思います。しかし、休む事に対する罪悪感にかられる生活は確実に心身に悪影響を及ぼし、益々疲弊するという悪循環に繋がりました。

  • 「私がつくった事務所なのだから私の言う事は絶対だ!」「何でお前は私の為に働かないんだ!ふざけるな!」「私が一番偉いんだ!!何でわからないんだ!!」と声を荒げることが度々ありました。

その剣幕たるや凄まじく、あまりの怒りに涎を垂らしながら叫んでいましたが、それに気がつかない程の激高ぶりでした。完全に封建社会でした。

人間関係からの切り離し

隔離・仲間はずれ・無視に関するパワハラの事項です。

小規模事務所で途中から所員が私一人の状況だった事もあり、集団から仲間はずれにされるような事はありませんでした。ただし、癇に障るとこちらからの連絡に所長が一切応じなくなる事は良くありましたし、クライアントを前にしている場面でさえ無視されるといった事はありました。

過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害に関するパワハラの事項です。

これについては明らかに無理な業務量であると言う認識を所長が持ちながらも、積極的に改善する気がなかったので日々過大な要求をされていたように思います。

また、ただでさえ実施設計の業務量が過大であったにもかかわらず、準備期間も人も足りない状況で公共建築のコンペにとにかく応募したがりました。応募するからには私としても全力で取組みましたが、徹夜を増やすにも限度があります。

このようなやり方は事務所の伝統だったようですが、当然、過去を含め公共建築コンペの当選実績はありません。

過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことに関する事項です。いわゆる仕事を干されるような事だけはありませんでしたので、唯一該当しなかったと言えるかもしれません。

個の侵害

私的なことに過度に立ち入ることに関するパワハラの事項です。

激高している時、家庭環境が引き合いに出される事が良くありました。「お前がそんなにだらし無いのはお前の両親が悪い!」などとよく言われました。また、私が将来家庭を持ちたいという希望に対しても「今時そんな若者はいない!だからお前はダメなんだ!」と言われました。

業務上の話をしている途中に激高した際の言葉でしたが、いまだに意味が分かりません。

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ブラック建築設計事務所の所長に退職の意思を示してみたが、辞めさせてもらえなかった

あまりのパワハラや理不尽な扱いに心身ともに消耗し、経済状況的にも限界だったため退職を申し出ました。

もちろん、こんなに酷い環境と金銭面も含めた待遇ではとても続けられないと理由を伝えましたが、その際、「お前みたいな奴が被害者面してすぐ労基とか言い出す!」だとか、「裏切ったのはお前なんだから、徹底的に悪評を振りまいてやる!」だとか脅迫じみた事を色々言われました。

しかし、その数日後妙に態度が優しくなり「辞めても良いけど業務量を調整するから後少しいてくれ」と提案されました。回答を渋りましたが、束の間の穏やかな日々に「もう一度所長と頑張ってみよう」と思ってしまった私は所長の提案を受け入れてしまいました。

この時の判断は今思えば自分でも信じられませんが、当時の精神状態は過度に続いたパワハラと理不尽な扱いにより本当に奴隷のような状態でした。態度を軟化させた所長を信頼してしまった私の選択を、後に友人は「DV被害者の妻が夫と別れられないのと似てるね」と評していました。言い得て妙だと思います。

結局すぐにパワハラと理不尽な要求は再発。給与の遅配等も発生し、現実的に心身の調子もおかしくなっていたため限界。辞めると伝えました。実は、書類上では途中から退職していたので辞めるも何も無かったのですが。雇用関係上も最後はおかしな事になっていました。

私が感じたブラック建築設計事務所の見分け方

私個人の経験と、ブラック建築設計事務所出身者の話から、ブラック企業と疑われる建築設計事務所の特徴を考えてみました。

  • 所長の知名度の割に、実作が極端に少ない
  • 所長と退職後のOBOGの繋がりが無い
  • 所長がOBOGの悪口を頻繁に言う
  • 公開情報に建築士事務所登録の記載や管理建築士の記載が無い
  • 公式な書類に所長が名前を出したがらない
  • 所長と既知の間柄で入社したスタッフが短期間で退職している
  • 雇用条件等を書面に残すのを嫌がる、又は残さない
  • 所長は事務所経営以外の収入で生活を賄っている上に、事務所の売上が極端に少ない
  • ナンバー2の番頭所員がいない
  • 独立して事務所を経営しているOBOGがいない
  • OBOGがほとんど建築から離れてしまっている
  • 罰金を支払わされる

上記に当てはまるからと言って必ずしもブラック建築設計事務所であるとは限りませんが、該当する場合は注意した方が良いと思います。

ブラックアトリエ事務所を抜け出す

ブラック建築事務所でもスキルは上がるが…食えない

もちろん、スキルは上がりました。小規模は設計事務所では建築のみならず、雑務等あらゆる業務を自分一人でこなさねばなりません。また、建築だけに焦点を絞れば、そこに向き合う姿勢など、多くの点で勉強になりました。ただ、そのどちらも私が働いたブラック建築設計事務所でなくても得られるものだと思います。

その一方で、事務所を経営するという視点が完全に抜けていたため、当時食えないばかりか退社後に食えるような学びは全くありませんでした。

事務所の売上はどう考えても良くて年に400万円程度でしたし、所長自身は事務所以外の収入で生計を立てていたのは明白でした。

また、アルバイトが理不尽に給料を減額されるなどを目の当たりにしていたため、将来同じようなやり方で建築設計に関わる事は出来ないと感じました。

私は小規模設計事務所・アトリエ事務所で働くことについては、今でも全く否定する気はありません。建築を追求しつつ、しっかり経営して、OBOGとも健全な関係を築いているアトリエ事務所も沢山あります。

オモテの実績だけでなく、実はウラのブラックさも業界では有名だった

後から知った話ですが、私が入った設計事務所のブラックさは、一部の建築業界関係者の間では有名だったようです。オモテの実績だけで判断せず、客観的な情報収集は大事だと実感しました。

実際、ここまで追い込まれると逃げる力が失われています。今振り返れば「何故もっと早く逃げ出さ無かったのか。」と思いますが、そういう精神状態ではなかったのです。

そして、このようなところに長時間労働やパワハラの難しい問題があると感じています。

金銭面はなんとかできるので、次が見つかっていなくてもブラック企業は辞められます

次の職場が見つかっていなくても、ブラック企業は辞められます。

すぐに働けないのであれば、まずは失業手当の申請しましょう。多少なりとも貯金があればある程度生活の目処が着くはずです。状況的に可能であれば、一時的に実家に相談するという方法もあるでしょう。

また、金銭面の不安がある場合は建築系の派遣社員として働いて体制を整えるという手段もあります。

派遣社員というとCADオペレーター職しかないというイメージがあるかもしれませんが、実際は色々な求人があります。また、きちんとした職場環境で月収30万円程度になる場合も少なくありません。

もし「おかしい」と感じ、この記事のような状況に陥ってしまったらさっさと逃げましょう。良くも悪くもブラック企業で消耗していたエネルギーを健全に生かす術は沢山ある、そう実感できただけでも、私は逃げ出した価値があったと思っています。

閉じ込もらなければ逃げた先でなんとかなります。そして、報われない状況で消耗するのではなく、自分のエネルギーを前向きに使っていきましょう。

フリーランチでは、建築系ブラック企業を辞めた後の職場が見つかっていない状態でも、金銭面の状況に応じた働き方の提案や転職の相談を行なっています。打開策が見つからないと感じているのであれば、手遅れになる前に、まず一度ご相談ください。

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