建築業界や建設業界における派遣社員という働き方について、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
今回は建築設計者としてのキャリアを軸としてきた私が、正社員から大手派遣会社所属の派遣社員という働き方を選び、派遣先の大手建築系会社に勤めた体験を元に、その実態やメリット・デメリットを皆様にお伝えしていきたいと思います。
建築系の大手派遣会社のしくみと派遣社員という働き方
まずは、大手の建築系派遣会社を初めて利用し、登録会に行った時の事を中心にお話ししたいと思います。
派遣という働き方は、派遣会社・派遣スタッフ(=あなた)・就業先企業の3者で成り立っています。そして、派遣会社と雇用契約を結んだ人材が、就業先企業の指揮命令を受けて業務を遂行します。
就業先企業は派遣会社と労働者派遣契約を結び、派遣会社に契約に応じた金額を支払います。派遣スタッフには、そこから派遣会社の利益等を差し引いた金額が給与として支払われます。
これが派遣会社を介して働く、給与を得る仕組みです。
問い合わせから就業まで 〜建築系の大手派遣会社利用の流れ〜
実際に求人に問い合わせる前に行うこととして、派遣会社に実際に出向いて登録会に参加する必要があります。私の場合は、電話で建築系の大手派遣会社に問い合わせて、登録会の日時調整や必要書類の確認を事前に行いました。
登録会では派遣会社の窓口担当者と経歴や希望条件を問われる面談や、スキルチェック(後述)を行った後に、実際に求人の紹介を受けることになります。そして紹介された求人を検討し、もし興味があれば担当者に意思表示を行う、希望先であると伝えます。
私の場合、登録会から派遣会社担当者への意思表示までは4日ほどを要し、一度紹介された求人に対しては早めの返答を求められました。
その後は担当者がスキルシートを作成し、企業へ私を推薦します。(このスキルシートは、「私個人を特定できる情報を除いた職務経歴書」となっています。)
相手企業が了承すれば、会社見学という形で派遣会社の営業担当者と共に企業に訪問することになります。私はその時に、人事や所属先部署の代表の社員と面談を行いました。問題が無いことを確認することでの企業への派遣が決定し、同時に、派遣会社と雇用契約を結びます。
そんなやり取りを経て、晴れて就業開始!というのが私の経験した派遣会社を経て就職を決めた大まかな流れでした。
建築系派遣会社の登録会とは?
初めて建築系の派遣会社を利用する際には、登録会という場で「面談」と「スキル確認」を行うことになります。それぞれどんな事をするのかを以下で説明します。
面談パートは職務経歴書の作りこみをした上で臨もう
面談パートでは「職務経歴書」が必須となります。また、可能であれば「ポートフォリオや過去に作成した図面」などを持って行くとより良いです(履歴書は必須ではありませんでした)。
ここでは職務経歴書を軸に、派遣会社の営業窓口担当者からこれまでの経歴や業務内容を問われ、他にもどういった就業条件を希望しているのかも聞かれます。
就業条件については細かくすり合わせが行われます。
希望職種だけでなく、時給や就業先となる企業までの交通時間や、短期か3ヶ月以上の長期かといった就業期間、残業について(稼ぎたいのなら残業の多い所と希望できます)、フルタイムかパートタイムか、などなど、かなり細かく要望を出すことで話し合いが行われます。
建築士資格の勉強時間を確保できる働き方や、フリーランスの方の副業というようなオーダーも実際にあるそうです。
一方、面談担当者が必ずしも建築業界の個々の事情に詳しいかと言えばそうではないようです。
例えば、私は検討中の手描き資料や詳細図を持参したのですが、「こういう図面は初めて見ました!」と言われて、正確に私を評価してくれるのだろうかとちょっと不安になりました。その辺りの事情は、「建築業界のキャリア形成は複雑?職務経歴書を読み取れない若手転職エージェントにご注意を」と共通のようです。
幸い、職務経歴書については誤解無く伝わるようにとかなりつくり込み、しっかりと説明を行ったので最終的には致命的な相違は生じませんでした。
そういった意味では、アトリエ系事務所や専門性の高い実施設計経験や現場経験をお持ちの方は特に注意が必要でしょう。
スキルチェック、CADは実技課題でした
スキルチェックではCADをはじめとするアプリケーションの操作技能と建築的な知識を確認されます。
特に、CADを必要とする職種を希望する場合、実技試験が必須とのことでした。
私の場合、VectorworksとAutoCADの2つの課題を受けました。
これらは30分程度の持ち時間で行われ、既に用意されている平面図をお題に沿って修正するものです。具体的には、家具の移動や寸法調整、フォントの修正、ドアの作図やレイヤーの変更などで、図面の密度も詳細図などではなく1/200図面程度の密度の図面でした。
また、前者では住宅、後者では集合住宅を想定した課題でした。私の場合は、面談を行ったブースに設置してあったパソコンでそのまま試験を受け、課題中は監督もなく一人でした。
難易度としては建築の実務者としてこれらのソフトを使っている方なら容易なレベルだと思います。
Vectorworksの課題では時間が10分程度余りましたが、私がAutoCADについては長く触っていなかったこともあり、コマンドの大半を忘れてしまっていました。そのため6割程度の完成度で時間切れになってしまいました。
ただ、その程度の出来映えでもAutoCADの職場も紹介してもらえましたし、就業前にCADの研修を受けられる場合もあるのでそこまで神経質にならなくても良さそうです。ちなみに、JW-CADの課題もあるようです。
他のスキルチェックも実施されました
また、IllustratorやPhotoshopの操作についてA4ペーパー1枚程度のチェックリストを渡されました。
Illustratorでは、
・パスで図形をかけるか
・整列コマンドを使えるか
・CMYKとRGBの切替えができるか
Photoshop では、
・フィルターをつかえるか
・レイヤを設定できるか
・解像度の変更方法を理解しているか
などで、1問1答形式の質問リストです。
案件によっては、プレゼンシートの作成や資料作成のサポートと言ったものもあるので、これらのチェックが行われるようです。
ただし、私は両ソフトともそれなりに使用経験がありますが、正直、質問内容はあまり実務的とは思えませんでした。ちなみに回答時間はそれぞれ15分でした。
その他、建築全般に対する基礎知識を確認するA4ペーパー2枚程度のチェックリストも渡されました。内容は計画・環境・法規・構造・施工の各分野からです。
CHやSLの意味を正しく示している表記を図版から選択する問題や、LGSで実際に存在する規格を2種類回答する問題などがありました。実務で設計や施工管理を行っているような方なら大きな問題ないでしょう。こちらは回答時間30分でした。
はじめて正社員から派遣会社への紹介で勤めてみて感じたこと
スキルが問われる分、専門職として考慮され期待される
私が利用した大手派遣会社の場合、(変な言い方になりますが)想像していたよりもしっかりしていたというか、担当者はとても親身な印象を受けました。
元々正社員という立場だったこともあり、もう少しアルバイトっぽいイメージがありましたが、「建築のスキルを持った人」という前提できちんと派遣先を考えてくれているようです。
ただし、担当者全てが必ずしも建築実務や職種ごとのスキルの違いを把握しているわけではないので、そこは注意した方が良いと思います。
その意味でも、職務経歴書をきちんと作っておく事がとても重要だと思います。
履歴書が必須でない分、自分を評価する資料となるのですから尚更です。
一方、スキルチェックパートについては過度に不安になる必要もないかと思います。
というのも、スキルチェックパートが終わった直後に直ぐに案件を紹介されましたし、その出来が紹介案件の内容に影響を与えたとは到底思えないからです。
それよりは、職務経歴書を元に伝えていた実務経験が大きく影響していたように思います。
派遣社員のメリット・デメリット
正社員ではなく派遣社員という働き方ではありますが、建築系というスキルが前提になってくる分、待遇面も思っていたよりも良く、月給30万円程度を得ることが可能な案件もそこそこありました。
また、大手派遣会社であれば、社会保険も完備されていました。更に業務内容が正社員と変わりがない案件も散見されました。
これは私にとっては予想もしていないメリットであり、実際に派遣先が大手の建築系会社であったため、充実した福利厚生を受けることが出来ました。もちろん、派遣という働き方は正社員に比べてデメリットもあります。やはり給与、待遇が正社員よりは恵まれない環境が多いことです。
派遣社員は誰にでも推奨される働き方ではありませんが、状況によっては有効な選択肢の一つになる場合もあります。
多様な働き方を知ることで、私の体験談が皆さんの働き方を選択する際の比較検討の参考になれば嬉しく思います。さらに具体的な実体験を書いた「建築系大手人材派遣会社で紹介される求人内容と時給や交通費教えます」もあわせてお読みください。
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