会社員からフリーランスになる時の健康保険料の節約方法を解説

会社を退職しフリーランス(個人事業主)になる方は、今後どのような健康保険に加入するかをいくつかの選択肢から選ぶ必要があります。

この記事ではフリーランス(個人事業主)の方が選択できる健康保険の加入方法や、それぞれのメリット・デメリットなどを解説します。ご自分にあった方法を選べば、健康保険料を節約できる場合もあります。

建築系の会社員の方に適した健康保険の選び方は「給与以上に得をする!建築・建設系企業が加入する3つの健康保険組合の違いを徹底解説」をご一読ください。

※2018年3月6日追記(2015年7月11日公開)

フリーランス(個人事業主)になる方が加入できる健康保険の種類

健康保険や国民健康保険などをまとめて「医療保険」と呼ぶ場合があります。あまり一般的な呼称ではありませんが、この記事では「広い意味での健康保険」を指す時に使っています。

一般的な会社に勤める方が加入している医療保険は「健康保険」「国民健康保険」に分かれます。さらにそれぞれ保険の運営者によって名称や保障内容などが異なります。

一般的に、会社に勤める方が加入している医療保険は次のどれかになります。

  • 協会けんぽや会社の健康保険組合などが運営している健康保険
  • 国民健康保険組合が運営している国民健康保険(組合国保)

組合国保とは、同業種の方で構成される国民健康保険組合が運営する国民健康保険です。ゼネコン系の会社に勤務されている方は、「土健保」と呼ばれる建築系の組合国保に加入している場合があります。

これらの医療保険に加入していた方がフリーランス(個人事業主)になる場合、次のような選択肢があります。

退職後の選択肢 会社員時代の健康保険の任意継続 国民健康保険 組合国保
運営主体 ・全国健康保険協会
・会社などが組織する健康保険組合
市区町村 文芸美術国民健康保険組合などの国保組合など
対象者 健康保険に加入していた人 他の医療保険に加入していない人 文芸美術国民健康保険組合などの組合国保に加入している人
保険料 ・保険料は標準報酬月額を基に計算する
・保険料は全額負担
・保険料は標準報酬月額などから計算する
・保険料は市区町村によって異なる
・保険料は組合によって異なる
・保険料は一律の場合が多い

保険料は収入や扶養の有無などによって違ってくるので、一概にどれがお得とは言えないのですが、次の項からそれぞれの健康保険について解説します。

会社で加入していた健康保険の任意継続を利用する

任意継続とは、これまで加入していた協会けんぽや会社の健康保険を2年間継続できる仕組みです。フリーランス(個人事業主)になっても会社で加入していた健康保険と同じ保障が受けられます。

任意継続を利用するメリットとデメリット

任意継続を利用するメリットの1つは、扶養の考え方がある点です。同一の保険料で扶養認定を受けた家族の保険証も発行してもらえるため、家族が多い方にはメリットとなります。これは国民健康保険にはない利点です。

もう1つのメリットは、保険料の最高限度額が決まっている点です。任意継続の保険料の計算は、「退職時の標準報酬月額に各都道府県が決めた料率をかける」という仕組みで決まります。

この計算の標準報酬月額は28万円を上限としています。つまり、退職時に毎月の給与などによって決まる標準報酬月額が28万円を越えていた場合でも、保険料は28万円の場合と同じ額になります。そのため、退職時の給与が高額だった場合などは保険料がお得になります。

任意継続にはデメリットもあります。健康保険に加入していた方の保険料は会社が半分負担していました。退職するとその保険料は全額自分で支払うことになり、保険料が倍増することになります。また、継続する2年間、保険料は変わらないのでその点も注意が必要です。

任意継続した場合の保険料は加入していた健康保険によって違ってきます。協会けんぽの方はお住いの地域の全国健康保険協会支部に、組合健保の方は加入していた健康保険組合にお問い合わせください。

任意継続の利用条件

任意継続を利用するには以下の要件を満たしている必要があります。

  1.  健康保険の資格喪失日の前日までに、継続して2ヶ月以上の被保険者期間があること
  2. 資格喪失日から20日以内に申請すること

つまり継続して健康保険に加入していた場合、会社を退職し健康保険の資格を失ってから20日以内に手続きをする必要があります。この期限を過ぎるとどんな理由があっても手続きはできないので、注意が必要です。

任意継続の申請方法(協会けんぽの場合)

中小企業の多くが加入している協会けんぽの場合、任意継続の申請には以下の書類をお住いの全国健康保険協会の都道府県支部に提出します。

  • 任意継続被保険者資格取得申出書
  • 被扶養者届け(被扶養者がいる場合)

また、この他にも住民票や課税(非課税)証明書など、追加で書類が必要な場合もあります。詳しくは全国健康保険協会のサイトから確認できます。

組合健保の場合は、加入している健康保険組合よって手続きが異なります。詳しくは加入している健康保険組合にお問い合わせください。

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お住いの市区町村が運営する国民健康保険に加入する

お住いの市区町村が運営する国民健康保険に切替える方法です。

日本は何かしらの公的な医療保険に加入しなければいけない仕組みになっているので、会社で加入していた健康保険から脱退すると強制的に市区町村が運営する国民健康保険に加入することになります。

市区町村が運営する国民健康保険を利用するメリットとデメリット

国民健康保険の保険料は世帯の前年所得などによって決まります。また、扶養の考え方がないため、家族1名ごとに保険料がかかってきます。そのため以下のような場合は保険料が安くなります。

  • 独身世帯
  • 前年の所得が低い場合

また、国民健康保険料の計算は自治体によって異なります。収入に対する保険料や扶養家族の人数に対する保険料の他に、固定資産に対する保険料がかかる自治体もあります。

つまり、以下のような場合は国民健康保険の保険料は高くなりがちです。

  • 扶養している家族がいる
  • マイホームを持っている
  • 保険料が高い地域に住んでいる
  • 前年の所得が高い場合

実際の計算方法は自治体によって異なるため、詳しくはお住いの市区町村役場の国民健康保険窓口などにお問い合わせください。

市区町村が運営する国民健康保険への切替え方法

市区町村が運営する国民健康保険の切替え手続きはお住いの市区町村役場の国民健康保険窓口で行います。手続きには一般的に以下のものが必要です。

  • 資格喪失証明書など、退職日が証明できる書類
  • 本人確認書類(免許証やパスポートなど)
  • 印鑑

資格喪失証明書は辞めた職場または保険証を発行していた機関で発行してもらえます。

また、手続きは14日以内に行うことが推奨されています。14日を過ぎた場合は切替えの手続きを取った日以降からが保険給付の対象になるからです。

つまり健康保険を失効し、かつ14日を過ぎて国民健康保険への切替えがされていない状態だと、医療費が原則10割負担になり払い戻しもできません。

14日を過ぎても国民健康保険への切替え自体はできますが、早めの手続きがおすすめです。

健康保険の選択肢

文芸美術国民健康保険組合が運営する国民健康保険に加入する

文芸・美術および著作活動に関わるフリーランス(個人事業主)の方が加入できる、文芸美術国民健康保険組合の組合国保に加入する方法です。

文芸美術国民健康保険組合の運営する国民健康保険に加入するメリット

フリーランス(個人事業主)の方が文芸美術国民健康保険組合に加入するメリットは保険料が収入にかかわらず一律である点です。

組合員(被保険者)と家族は以下の金額を支払います。また、組合員と家族が40~64歳の場合は介護保険料も支払います。

  • 組合員:月額19,600円
  • 家族:月額10,300円(※2018年2月10日現在)

保険料が一律のため、年齢や収入によっては保険料がお得になる場合があります。また、前年度の収入によって保険料が変化しないので、支出が安定するという側面もあります。

文芸美術国民健康保険組合に加入する方法

フリーランス(個人事業主)の方が文芸美術国民健康保険組合に加入するためには、文芸美術国民健康保険組合に加盟している各団体の会員になる必要があります。

文芸美術国民健康保険組合のサイトでは加盟団体のリストが公開されています。

さまざまな業種の加盟団体がありますが、入会費や年会費が必要な場合や、加入条件が厳しい団体もあります。さらに、文芸美術国民健康保険組合への加入は審査が厳しい場合があり、万人向けの方法とは言えません。

しかし加入することで大きな節約につながる場合もあるので、詳しくは文芸美術国民健康保険組合や加盟団体の規約をご確認ください。

健康保険料の年収別シミュレーション

以下に示すのは2017年度の保険料率などを基に計算した、任意継続・国民健康保険・文美国保の保険料のシミュレーションです。

東京都世田谷区在住、独身世帯、退職時39歳以下の場合の保険料(年額)

退職時の年収(※) 協会けんぽの任意継続 市区町村の国民健康保険 文芸美術国民健康組合の組合国保
750万円 332,976円 541,746円 235,200円
500万円 332,976円 344,659円 235,200円
200万円 237,840円 166,432円 235,200円

※任意継続の場合賞与は含みません。(平成29年度の保険料率等を基に2018年2月17日作成)

年収750万円の方の場合、国民健康保険は特に高額になります。

年収500万円の方場合、任意継続と国民健康保険は金額上大きな差がありませんが、扶養の方がいる場合は任意継続の方がお得になります。

年収250万円の方の場合、国民健康保険が最も安く、任意継続が最も高くなっています。

また、会社員時代の年収が750万円や500万円の方の場合、文芸美術国民健康保険組合の国民健康保険が特に安くなっています。しかし加入が難しい場合や加盟団体への会費が必要な場合などがあるので、事前に調べた上で加入を検討してください。

会社員時代の収入が多い場合の注意点

さらに、会社員時代の収入が多い場合、気をつけるべき点があります。

市区町村の国民健康保険は、会社をやめた翌年は会社員時代の収入を基に保険料が決まります。

そのため、収入が高額な方が国民健康保険を選択するとフリーランス(個人事業主)となって1年目に高額な保険料が発生します。そしてフリーランス(個人事業主)となって2年目に、去年の収入が保険料に反映されます。

任意継続の保険料の上限は国民健康保険よりも低いため、会社員時代の収入が高くても、国民健康保険より保険料は安くなります。

ただし任意継続を選択した場合、保険料は2年間変わりません。つまりフリーランス(個人事業主)となって収入が下がったとしても、2年間は同じ保険料になるため、国民健康保険などへの切り替えも検討するといいでしょう。

フリーランス(個人事業主)の方は健康保険を適切に選んで保険料の節約を

フリーランス(個人事業主)の方が健康保険を適切に選ぶことができれば、保険料の節約につながります。また、それぞれの方法のメリット・デメリットをよく検討する必要があります。

・会社で加入していた健康保険の任意継続を利用:
扶養の多い方、標準報酬月額が28万円を超えるなど収入の多い方はお得になります。
・市区町村が運営する国民健康保険に加入する:
独身世帯や収入が少ない場合に保険料が安くなります。
文芸美術国民健康保険組合が運営する国民健康保険に加入する:
保険料が一律のため、お得になる場合があります。加入が難しい職種もあります。

上記の医療保険はそれぞれ保険料の計算方法が異なります。また、世帯の収入や年齢、扶養の有無などでも保険料は変わってくるため、適する方法は人によって異なります。

詳しくは全国健康保険協会の都道府県支部、市区町村の国民健康保険の窓口などにお問い合わせください。

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