建築業界、建設業界でも転職エージェントの利用が一般的になりました。
建築業界のキャリア形成は40代前半まで市場価値が高まり、定年後のシニア層の転職も活発な業界です。
建築業界は転職エージェント泣かせの業界とも言われていて、建築技術者のキャリア形成が複雑なため、読み違いによる失敗も良く耳にします。
同じ建築業界で働いている方でも、用途や構造、規模はもちろん、どのフェーズを得意にしているかでキャリアの育て方が変わってくるためです。
さらに、与件整理や基本計画、企画段階が得意なのか、実施設計が得意なのか、監理が得意なのか。
建築業界のキャリア形成は複雑であり、職務経歴書を読み解くのが非常に難しい業界なのです。
この記事では転職エージェントのしくみやメリットはもちろん、建築業界ならではの失敗事例やデメリットまで踏み込んで解説します。
この記事のポイント
建築系転職エージェントは慢性的に人材不足
建築業界の転職エージェントは慢性的に不足していると言われています。
一級建築士の実働人口は60歳以下で約19万人(日経アーキテクチュア2016年4月14日号参照)と言われていますが、大手の転職エージェントでも東京の建設・不動産セクター担当の転職エージェントはたったの9~10人しかいません。
そのなかでシニアコンサルタントと呼ばれる、業界を熟知したベテランのエージェントは各社1人いるかどうかです。
転職エージェントは、基本的には建築業界とは無縁な方で構成されています。建築学科を卒業している方ですら稀で、建築業界の実務経験がある人はいません。
大手の転職エージェントのなかには、建築業界に特化しているわけではなく、いろいろな業界をローテーションしながらキャリアを積んでいくため、特定の業界に対する知識が蓄積されていない実態があります。
若手転職エージェントは建築業界の知識不足
とくに若手の転職エージェントは、建築業界や建設業界の知識がたまっていません。企画段階と基本・実施設計でどのようなスキルの違いがあるのかもわからず、適切なアドバイスができていないようです
- デベロッパー案件で都内の狭小地で収益用途のボリュームを納めてきた設計者と、地方の公共施設で集団規定の縛りがほとんどないなかで自由に設計してきた設計者との間には大きな差があります
- 再開発事業のような大型プロジェクトで得られる経験と、物販店舗や工場のようなスピードを要求される施設で得られる経験には大きな差があります
- クライアントによって設計者にかかる負荷がまったく違うので、どのようなクライアントとつきあってきたかでも大きな差があります
建築で実務経験を積んできたあなたが転職エージェントに行くと、自分の職務経歴に対する理解が進まないことにフラストレーションがたまることがあるかもしれません。
その場合はためらわずに担当エージェントの変更を申し出るか、相談する転職エージェントを変えることも検討してみてください。
転職エージェントのクライアントは採用側の企業
転職エージェントは、働き手のあなたを転職まで導いて、人材を紹介した会社から紹介手数料をもらうビジネスです。
大手の転職エージェントだと転職先が提示したあなたの年収の35%程度を手数料として受け取るしくみになっています。
転職エージェントの本当のクライアントは、働き手のあなたではなく、採用側の企業だということを覚えておきましょう。
切羽詰まったときに働き手のあなたよりも求人を出している企業の方を向いてしまう。これがこのビジネスモデルの本質的な問題なのです。
転職エージェントと働き手のあなたは、契約関係にもありませんし、報酬をやりとりする関係でもありません。
転職エージェントには丁寧に接するようにしましょう。
エージェントとあなたとの面談は、紹介先の企業とのプレ面接を兼ねていると言ってもいいでしょう。
あなたのキャリアが魅力的なものであれば、転職エージェントも丁寧に応対していもらえるのですが、あなたが横柄な態度をとったりすれば魅力的な求人は他の求職者の元へ紹介されてしまうこともあります。
転職エージェントにとって、本当の意味ではお客さんではありません。
たとえば求人をだしている会社があなたのことをどうしても雇いたいとプッシュしてくれば、紹介会社としてもあなたのキャリアにマッチしなくても、あなたを説得しようとすることもあります。
転職エージェントのが言う「転職できる」とあなたが「転職したほうがいい」は違う
転職エージェントとしては、あなたがどこかへ転職することで、紹介手数料を手に入れることができるのですから、積極的に仕事を紹介してくれるでしょう。
ただし、働き手のあなたにとっては、エージェントの「転職できる」というアドバイスと、あなたが「転職した方がいい」ということはまったく異なるものだという意識を持ってください。
また、採用側の企業の立場も失敗して離職者が出たとしても、再度募集をかるだけでも出入りが激しくなったとしても、そこまで深刻なダメージを負いません。
働き手のあなたには転職に失敗して退職すると、職務経歴書に書かなくてはいけなくなります。たとえば、20代後半で職務経歴書に2社の経験を書いているのと、3社の経験が書いてあるのでは、全然採用側の印象が異なりますよね。
会社から「あなたのことを欲しい」と言ってもらえても、あなたの市場価値やこれからのキャリア形成に見合ったものになるかを十分に考えて、決断しなくてはいけません。
大手転職エージェントの大半があなたの転職を引き止められない理由
業界経験も長いキャリアコンサルタントは、成果についても長期的な視点で考えるため、建築業界の転職における、最適解を探すことに長けています。
働き手のあなたにもそれなりに満足度の高い提案をしてくれるでしょう。
しかし、若いエージェントは違います。目先のノルマに追われて、目標達成のために明らかにランクが下の会社に押し込んでしまうなんてこともあるんですよね。
例えば、フリーランチのキャリア相談でも、大手の若手エージェントが犯した失敗のリカバリーを依頼されることがあります。
- スーパーゼネコンでバリバリ働いていた施工管理技術者を、土地活用とか賃貸経営をうたう離職率のブラック企業に転職させられてしまった方
- 発注側にいけると誘導されたもののスキルがまったくあがらない中途半端な会社を紹介されてキャリアの可能性を狭めてしまった方
- 業界にいる人なら誰もが知っていた倒産直前の会社に紹介されてしまった方
あなたが「転職した方がいい」のかは、もう少し客観的な立場から助言してもらう方がいいのかもしれません。
フリーランチのキャリア相談でも、転職におけるセカンドオピニオン的な利用をされる方がいらっしゃいます。
転職エージェントの特性を理解して、賢くつき合いましょう
自分が実際に転職してみたり、キャリア相談で各社のエージェントの評価を耳にしたり、人材業界の集まりで同業者と情報交換する中で、できる転職エージェントは建築・建設業界に3人いるかというレベルです。
人材紹介会社のサービスは効率化されており、大半のエージェントはKPI(主要パフォーマンス指標)の目標達成に追われているからです。
月に何人スカウトメールを送り、そのうち何回面接し、何人成約(転職を実現)させるというような、あなたの仕事探しとは相反する効率性重視の指標設定がされているのです。
多くのエージェントが建築・建設業界特有の複雑なキャリア形成を理解し、職務経歴書をじっくりと読み解くようなつきあい方ができないことが問題なのです。
経験の浅い若手エージェントほど、余裕がなく、アンマッチな転職を引き起こしてしまいがちです。
転職エージェントの大口顧客とはどのような会社だと思いますか?
採用が多く、離職率が高い会社です。大量に採用して、潰れなかった人だけを会社に残すというやり方をしている会社です。
こういう会社はいわゆるブラックな会社というイメージに近いと思うのですが、エージェントにとっても回転数が多いので、手数料を稼ぎやすいのです。
転職エージェントの特性を正しく理解して、つきあい方を考えてみてください。転職するしないに関係なく、フリーランチでは建築・建設業界の働き方に関するキャリア相談を受けつけています。