建築の発注者を志す人にオススメの本「総解説ファシリティマネジメント」

建築設計や施工の経験を活かした転職先として発注者側への転向が挙げられますが、発注者としてファシリティマネジメントの理解は欠かす事ができません。

しかし、その定義や具体的な業務内容を知るためには、参考となる文献が少なかったり、実際の業務経験者に話を聞く必要があったりと理解へのハードルが高い分野でもあります。

そんなファシリティマネジメントを学ぶために有効な参考書として「総解説ファシリティマネジメント」という一冊があります。

この記事では筆者が発注者側で働いていた際に「総解説ファシリティマネジメント」を活用していた経験から、ファシリティマネジメントのベースとなる考え方および本書の活用方法を紹介します。

総解説 ファシリティマネジメント 追補版
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ファシリティマネジメントはどのようなものか?

ファシリティマネジメントとは、公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)においては「企業・団体等が保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」と定義されています。

もともとアメリカで初めて認知された経営管理手法であり、今日では日本においても企業の保有する不動産等の保有・運営について経営効率を最大化するために、多くの企業がファシリティマネジメントを経営手法のひとつとして採用しています。

企業の保有する土地や施設に関わるために、建築設計や施工で培った知識を活かすことができる職能であるといえます。

同時に経営自体にも関わるため、建築実務だけでなく発注者としての視点も必要となり、それゆえに具体的な業務内容が掴みづらいという側面があるのも事実です。

発注者はなぜファシリティマネジメントを大切にするのか

企業を経営する上でかかる費用として最初に挙げられるのが人件費ですが、それに次いで費用の大部分を占めるのが土地や施設の保有・運営に伴う固定費です。
また企業だけでなく、病院や学校といった公益事業においても同様に固定費が発生していますが、人件費と比べると費用対効果や不合理性の検証・対策がなされていないことが少なくありません。

しかしながら、ファシリティマネジメントの実行を通して、土地や施設の保有・運営に伴う固定費を見直し、また中長期の計画に沿って運営方法自体を検証・是正することで企業全体の経営効率の向上に繋がります。

単純に土地や施設を有効活用することではなく、経営に直結するため発注者としてファシリティマネジメントを大切にする必要があるのです。

発注者としてファシリティマネジメントを大切にする

「総解説ファシリティマネジメント」の活用方法

ここからは、建築の発注者を志す人にオススメの本「総解説ファシリティマネジメント」の活用方法について、筆者の経験をもとにお伝えします。

建築実務を活かして発注者側への転職活動において参考になる

建築設計や施工の経験を活かした転職候補として、発注者への転向が考えられます。

建築業界での発注者側業務においては、建築実務の知識に加えてファシリティマネジメントの考え方をおさえておく必要があります。

「総解説ファシリティマネジメント」は500ページを超える参考書であり、定義だけでなく実際にどのような業務を行うべき分野であるかという基本的な知識について丁寧に書かれています。

発注者としての業務は内容が幅広いために具体的に理解することが難しく、例えば募集要項を読み込む際にも書かれている業務内容が掴めないということが考えられます。

その際に、発注者にとって欠かすことのできないファシリティマネジメントの考え方や役割を知ることで、実際に発注者へ転向した後に行う業務のイメージが湧きやすくなるでしょう。

したがって発注者側への転職を考える際には、実際にどのような業務を行うことになるのか、それらの業務で自分のキャリアをどのように活かせるかを考える上で本書が有効なのです。

発注者側の業務において自分がすべきことと、すべきでないことが明確になる

実際に発注者側でファシリティマネジメントに携わることになった場合、考えるべき要素の多さに気づかされるでしょう。

例えば、本書でも定義されているとおり、ファシリティマネジメントの標準業務サイクルとして、【1】FM戦略・計画 【2】プロジェクト管理 【3】運営維持 【4】評価 という4項目が挙げられていますが、これらの項目のうち発注者側としての自分が直接すべきことなのか、すべきでないこと、つまり外部パートナーと協業して行うことなのかを整理する必要があります。

同じ発注者側の業務と一括りに言っても、ファシリティマネジメントに包括されるそれぞれの項目のどこまでをインハウスとして行うのか、どこまでを外部パートナーに委託するのかについては企業の方針によります。

筆者の場合、本来は外部パートナーに任せるべきパートまで自分で率先して行ってしまい、外部パートナーの担当区分で自分の手を動かしてしまったことがありました。

その際に、所属する組織の状況では、どのパートについて自分がすべきで、どのパートについては外部パートナーに委託すべきなのかを冷静に整理するために役立てていました。

発注者としてすべきことが不明瞭になってしまった際に、すべきこと・すべきでないことを整理するために本書を活用することができるのです。

発注者として重要である時間軸を学ぶことができる

ファシリティマネジメントは取り扱う業務の幅広さだけでなく、企業の経営について長期にわたる時間軸にも注意しなくてはいけません。

例えば、組織変化に伴いワークプレイスはどのように効率化すべきか、施設の長寿命化のためにどのように中長期計画を実行していくのかという将来に向けた長期的な視点をもって業務に取り組む必要があります。

施工管理の経験を活かしてファシリティマネジメントに転向をした筆者の場合、施設の改修のためのスケジュールを管理することには慣れていましたが、ピンポイントの改修工事だけでなく施設の経営効率を含めた長期的な視点で物事を見ることには慣れていませんでした。

その際に、ピンポイントではなく施設の長期的なライフサイクルを考えるための視点を学ぶことができたのは、ファシリティマネジメントについての定義や基礎知識から語られている本書のおかげでした。

建築実務の経験だけでなく、企業の経営を見据える重要性が高まるため、建築設計や施工の経験を活かして発注者へ転向する場合においては、新たに取り入れるべき時間軸の視点といえるでしょう。

ファシリティマネジメントの概要から実践的な内容まで網羅した本書では、建築の発注者にとって重要である建築実務経験に将来の経営を見る時間軸を取り入れるために活用することができるのです。

建築の発注者への転職や発注者としての実務で活用しよう

「総解説ファシリティマネジメント」の活用方法は以上になります。

発注者にとって必須となる長期的な目線での経営効率の考え方や、それを包括するファシリティマネジメントの概念はなかなか掴みづらく、また他の分野に比べて参考にできる情報量が少ないのも事実です。

建築設計や施工の経験を活かして発注者への転職を考えているけど具体的な業務内容を知りたい、実際に発注者として働くなかでの悩みを解決したい、という場合に本書を活用してみてください。

フリーランチは、建築の設計や施工のスキルを活かせる、建築の発注者やPM/CM会社への転職の支援を得意としています。発注者側企業への転職を考えている方はぜひキャリア相談をご利用ください。

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