人口減・少子高齢化が進むこれからの時代、建築・建設業界も市場の縮小と向き合っていかなくてはいけません。
広い社会全体に視線を向けると、従来のような建築設計に専念していたロールモデルから、職域に囚われずマルチな仕事のできる人材が活躍し始めています。そしてこの、これからの時代に求められる人材像にぴたりと当てはまるのが設計領域にとどまらず建築業の経験を応用する建築系フリーランスです。
東京建築士会「第二回これからの建築士賞」を受賞した経験を元に、建築士の業務範囲に縛られることなく、ゆる~く独立する方法をお話しします。(文・坂山毅彦)
個人アトリエではなく、建築系フリーランスという働き方
前回の記事「フリーランス建築家の私が建築家として独立・開業したい人が感じる不安・壁を解説します」では主に、若手建築家ゆえに直面しがちな壁や、建設業界や社会問題の不安を「独立後に立ちはだかる壁」として説明してきましたが、それでも独立願望が強く存在するという個人的問題に向き合わなければなりません。ならばこれからの時代に独立して活動することの可能性を見つけ出すことが大切ではないでしょうか。
この「建築系フリーランス」は、社会的なニーズにも合致しているようです。働き方の方法論はさまざまな業界でもホットトピックになっていますが、これからの社会に求められる人材像として、従来のようなエンジニア的な人材である一つの専門領域の道を進む職人気質な人材の「I型」人材よりも、複数の領域をつなぐ「Π型」あるいは「H型」の人材を求めているようです。
建築業界の独立モデルでいえば、従来型は「I型」モデル、建築系フリーランスは「H型」人材といえるのではないでしょうか。
「ゆる~い独立」がむしろ求められる型にはまる
「建築系フリーランス」としていきていくために、どのようにもう一つ(あるいは他)の職域を探せばよいでしょうか。
わたしの場合は結果的に「書店」に出会うことができました。建築書コーナーに建築士の経験を注入することと、その書店員経験を建築界にフィードバックすることのサイクルをつくることができました。
こうした建築系フリーランスの取り組みを「書店員する建築士」として、東京建築士会が主催する「第二回 これからの建築士賞」を受賞することができました。新しい建築士の働き方として評価してもらいました。
「書店員する建築士」は突飛なアイデアに感じられるかもしれませんが、私も書店員に至るまでさまざまな試みをしてきました。
例えば派遣社員という働き方を活用して、独立してからも派遣先で営業して自分の仕事につなげるようなこともありました。あるいは、自分自身が設計者ではないプロジェクトであっても、実現が社会的に意味のあると思えることであるならば関与し、建築関係者としての姿勢を広く知ってもらう機会をつくったりしました。
大切なのは相互の領域を橋渡ししながら行き来できることです。
そのような視点をもって探すならば、例えば「積算業務」や「什器設計」など派遣スタッフとして募集されている職種の中にもたくさん潜んでいると思います。実はわたしもwebで見つけた「書店スタッフの一般公募」に応募したのです。フリーランチには派遣社員に関する解説記事「実体験!東京の建築系大手派遣会社の紹介求人の時給や交通費教えます」もありますのでぜひご一読ください。
そして今は建築の「創作」と「メディア」の間に架かっている橋を渡り、建築事務所と書店を行き来しています。この橋を架けることができれば、副業をするという後ろめたさを抱くことなく複数の業態から収入を得ることが可能になります。独立した意義を自他に示すこともできます。
ゆる~い独立方法、兼業のススメ
前回「建築学の教職に就くことが副業に感じられない空気がある」と書きましたが、教職に限らず一定の収入が見込める「副業」という選択肢については改めて考えてみてもいいのではないかと思います。
兼業ありきの独立は、従来型の独立モデルに比べて、「ゆる~く」感じられるかもしれませんが、むしろひとつの正当な独立方法として肯定してもいいと思います。兼業するということは、建築的思考を発揮する領域を広く、多くもつという積極的な意味をもっており、かつ、やりたいことを仕事にする術なのです。
「H型」人材が求められる社会や、東京建築士会が「これからの建築士賞」を設立した時代背景は着実に兼業を許容し始めています。
実際にこの働き方を経験してみて、「副業」が「本業」の可能性を拓くという体験をしました。建築設計だけで食べていかないことに可能性があるともいえる、従来型ではない「ゆる~い独立」の道もぜひ模索してみてください。
フリーランチではそんな「ゆる〜い独立」を考えている方に向けてもキャリア相談を行なっています。