「これからの建築士」の私が建築家として独立・開業したい人が感じる不安・壁を解説します

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

「建築家として独立したいけれど、設計業務の継続的な受注方法に不安だ」「そもそも建築設計だけで食べていけるのかわからない」なかなか決心がつかない大きな要因のひとつは、個人設計事務所が安定的市場を見つけにくい現在の建築業界にあるのではないでしょうか。

東京建築士会「第二回これからの建築士賞」を受賞した経験を元に、そこへ至る以前に味わった、独立し個人設計事務所をするうえで立ちはだかる壁と、その壁に対峙する独立のための心得をお話しします。

建築系のフリーランスについて詳しく知りたい方は、建築系のフリーランスを4つに分類し、働き方やお金・報酬について実態を紹介しますも併せてご覧ください。
(文・坂山毅彦)

建築の働き方の悩み、プロに相談しませんか?

設計事務所から独立して初めて知った壁

わたしがアトリエ設計事務所から独立したのは2008年の8月。

リーマンショック(2008年9月)も東日本大震災(2011年3月)も起こる前のことでした。実を言うと独立を決めた理由も「30歳になる前に」という無根拠な自分ルールに従ったにすぎませんでした。

今思えばなんと無邪気なことかと呆れますが、独立とは自分のやりたい建築を実践したいという衝動に突き動かされて起こす、情熱的な感情を伴う行動なのです。一方で抱える「独立することへの不安」に打ち勝つためには不可欠なモチベーションでした。

でもできることならこの「不安」は打ち勝つだけでなく、事前に取り除くべきです。残念なことにそれができなかった私は、独立後に立ちはだかる壁として向き合わなければなりませんでした。

若手は設計料の安さを期待される

はじめての仕事は前職のアトリエ設計事務所勤務を通じての知人から依頼された住宅の設計でした。クライアントがアトリエ設計事務所のボスではなくスタッフであった私に依頼をした理由は、ドライにいえば「都合が良いから」でしょう。

ボスより「安い設計料」「短い設計期間」を、独立するにあたりなんとしても最初の設計依頼が欲しい若手建築家に求めることはよくあることです。ありがたいことに私の場合はもっとウェットで良好な人間関係の上で仕事は進みましたが、このようなドライな側面もともなうのは、まだ建築家としての実績がない独立初期につきものです。

安定か、スタンスの確立か

建築家としてのスタンスやスタイルを示すためには、クライアントの都合や仕事の有無ではブレない芯の強さが必要ですが、知人友人からの依頼が続かなければ、食えてなんぼである「生活者」としての自分が「建築家」としての自分を揺さぶりはじめます。

この建築家と生活者の二面性を保つ典型的な状況が、「設計コンペの応募」「なんらかのお金稼ぎ」の二本柱で活動する日々です。安定を求めるならば後者にほとんどの比重を傾けるでしょう。

例えば施工会社の設計部門を代行するような効率の良い設計業務を主とすれば仕事量と収入が釣り合った生活が待っているかもしれません。でもその道を踏みとどまらせるものがそもそもの「独立願望」であり、その意志を保てる人ほど、「設計コンペ」という回収のあてのない投資に時間を費やすといった事態になります。

副業をどう位置付けるか

建築雑誌などのメディアに名を連ねる若手建築家は、「設計料の安さ」や「芯の強さを保てる仕事量」という壁をどのように乗り越えているのか大変興味深いです。

彼らの経歴を観察してみると、しばしば「〇〇大学非常勤講師」という肩書きを目にすることができます。こうした肩書きのウラには、「活躍の成果」だけでなく「副業の必要性」を読み取ることもできるのではないでしょうか。

建築教育の場であることや、この職にありつけるというステータスがそうさせているのか、非常勤講師が副業と感じられない空気が建築の世界には流れているように思います。

実は独立した個人事務所向けには、片や例えば施工図の作図など、経験を活かした割の良い仕事も建設業界にはたくさんありますが、それらに手を出すと副業をして生計を立てているような後ろめたさを伴うようです。しかしどちらも建築意匠設計業務外の副業であることには変わりません。大切なのは独立後の活動としてどのように位置付けて取組むかです。

設計事務所から独立した後の壁

8年のサバイバル経験から伝えたい、個人設計事務所が抱える課題

独立して8年、紆余曲折を経て独立建築家としてサバイバルしてきた経験から、これから建築家として独立しようとする方や建築家の世界に興味のある方へ、この働き方ならではの課題を解説します。

アトリエ事務所のスタッフ時代と、独立建築家の間には、近いようで明確な壁が存在します。私の場合は実際に独立してみてからはじめて認識しましたが、より一般化されるものとして次のような状況があるように思います。

従来の建築家ロールモデルは、経営学なしの経営

コンペで設計者に選定される、あるいは入選し注目を得る。または親族・知人友人から設計依頼を受けた仕事をメディアに載せ、世に知らしめる。このようなスタイルが従来型の建築家のロールモデルでした。

現在でも事実このルートで軌道に乗せきる剛腕をもつ建築家もいます。しかし、独立したい人の総数に考えると、わずか数%の勝率に賭けるゲームようなものです。

みんなが同じロールモデルを目指すというのは、競合との差別化やビジネスとして軌道に乗せるしくみづくりとはかけ離れた考え方です。経営学なしの経営といえるでしょう。

個人設計事務所は市場開拓から考える時代に

先輩建築家達の状況と異なるのは、人口減少・少子高齢化など、すでに儲かっていない建築業界の市場規模がさらに小さくなっていくという現実があるということです。

建設市場という分母が縮小され、ただでさえ少ない分子の中でせめぎ合っている個人設計事務所は、生き残るための市場開拓という視点を持たなくてはいけません。

経営学なしの経営

独立前に、成功するためのプランを立ててみよう

この記事でもお伝えしたように、わたしは社会の動向や変化、建築家の「経営者」という側面に無頓着で独立しました。自分の描いた図面通りのものが現実空間に建ち上がる興奮に夢中になりたい。それ故に設計に没頭していたいという想いは今でも大切に持ち続けていますが、事前に情報収集や適切な分析ができていれば、もう少し「うまい」やり方があっただろうなと感じます。

もちろん勢いがあったからこそ、独立期の不安を乗り越えられた側面もあります。しかし、独立してから感じた壁や課題をもっと早く知っていれば、うまく解決できる課題もあったのではないかと思います。

これから独立して建築の世界で生きていきたいという方は、ぜひこうした課題についてあらかじめ考えてみてください。フリーランチのキャリア相談では、独立を志す建築士のみなさんの支援も行っています。

仕事の悩みを働き方のプロに相談しませんか?

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。