建築設計事務所で働いている方は常に長時間労働が続いている状態で、働きながら一級建築士試験を受験しようと考えても、なかなか勉強時間が取れないと感じているのではないでしょうか。
そこで、今回は私が働きながら一級建築士の学科試験に合格した時の体験を交えて、日々の生活の中でどうやって勉強時間を作り出せばよいのかをまとめました。
(私以外の合格者の勉強法や体験記をまとめた記事も是非ご覧ください。「[2017年度受験生向け]合格者に学ぶ一級建築士の勉強法・合格体験記まとめ」)
また、受験のために必要な知識や、新しい問題の傾向を集中して学ぶことができる資格学校の講座と教材の効果的な使い方についてもご紹介します。
※ 最新版の学科手続きや受験スケジュール:「2017年一級建築士試験の学科・製図の手続き・受験スケジュールまとめ」
※2017年8月14日追記(2016年8月2日公開)
この記事のポイント
一級建築士の学科試験に合格するために必要な勉強時間は800~1000時間
一級建築士学科試験に合格するための勉強時間は約800~1,000時間だと言われています。
私自身の体験から考えると、学科試験は2回受験しましたが、1回目は集中してやらなかったため勉強時間は約300時間程度、合格した2回目では平均15時間×40週で約600時間でした。
合計すると約900時間程度となりますので、一般的に言われている勉強時間と見合う程度の勉強時間をこなしたかと思います。
効率よく勉強することはとても大事ではあるのですが、それでも時間がかかってしまうという事をまずは覚悟して、勉強を行わなければならないでしょう。
私は初めての受験の際、なるべく要点をつかんで勉強して、できるだけ仕事に響かないようにしたいと思って勉強したのですが、全く要領がつかめず、結局125点満点中で70点しか取れませんでした。
この時の勉強方法は、自分の手持ちの知識で解ける問題だけをしっかり固めていくことだけを考えた方法でした。
この方法では基本は分かっていても、そこから少しひねった問題、応用した問題には対応できず、点を伸ばしていくことができない結果となりました。
問題の意図を読み解き、正誤を素早く見極める
一級建築士の学科試験では「4つの選択肢の中から1つ誤った選択肢を選ぶ」という形式の出題が多いのですが、その時に間違いやすい(誤解しやすい)選択肢が2つ残ってしまい、そこで選択ミスしてしまうということがよく起こってしまいます。
これは「受験生がひっかかりそうな選択肢」という厄介な存在をいかにあぶり出してクリアするかが求められている問題です。
そのためには、一級建築士の学科試験の出題者がどんな意図を持ち出題しているのかを感じ取る能力と、各設問の全ての選択肢を確認してきちんとその正誤を見極める能力という2つの技能が必要になると言えます。
この2つの技能を育てるために、試験特有の出題形式と思考法に慣れるための時間と、全ての選択肢をチェックすることができるスピードを養うための基礎知識を蓄える時間がどうしても必要になると私は考えています。
私自身その時間を取らなければいけない、勉強時間として確保しなければいけないことを1回目の受験で痛感することができたので、2回目の受験の際は割り切って自分の勉強のための時間を積極的につくろうと思い、実行しました。
建築業界で働きながらつくる、1日2時間の試験勉強時間
では、一級建築士の学科試験を1年で合格するために、最低でも800時間の勉強時間をどのように確保すればよいでしょうか。
資格学校での教科書が配布され、一級建築士学科試験の勉強を明確に意識するのはだいたい11月頃からでしょう。
そこから(例年では)7月下旬に行われる学科試験までは約40週あると考えられ、800時間を40週で割ると1週間あたり20時間の勉強が必要となる計算になります。
つまり、1週間あたり最低でも20時間の勉強が必要になると考えられますし、そうするべきでしょう。
この内、資格学校に通う日が週1日で8時間勉強するとなると、残り6日で最低1日2時間の勉強をしなければならないということになります。
また、1000時間を目標とする場合には、1週あたり25時間の勉強をすることになります。
そのためには週1日10時間しっかり勉強する日をとり、残り6日で平均2.5時間ペースを守ることが大切になります。
しかし、一日集中して勉強をすることよりも、仕事をしている毎日でコンスタントに時間を確保して勉強し続けることの方がとても大変です。
よって適度に休みをとる時間も含めて、一日のうちで固定した勉強時間を確保するように計画を立てることをおススメします。
一日あたりの勉強時間を2時間は取りますが、休みたい時やどうしても仕事が入って長時間勉強できない時には、暗記項目を忘れないように読む程度、30分程度で済ませる方が習得量が良い、つまり効率が良いと私は感じます。
勉強時間の確保の具体例(私の場合)
勉強時間を確保するにあたり、例えば9時に家を出て、10時から勤務開始の会社の場合、どのような時間割が組めるかを考えてみましょう。
できれば6時に起床し、6時30分から8時30分の2時間を勉強時間として確保したいところです。
そして夜は時間が取れれば1時間、取れなければ軽く過去問や予想問題をおさらいする時間として、1日あたり2時間~3時間の勉強時間を確保するようにしたいですね。
また、きちんと睡眠時間を確保することも重要です。
会社にも事情を伝えた上で、日常的に長時間残業することのないようにしましょう。
勉強が計画通りに捗らない、上手く時間を確保できないというのであれば、有給休暇を取得するのも一つの方法です。
試験の直前にまとまった時間を確保すると合格しやすい秘訣だと私は考えます。
(もし、あなたが有給休暇を取得できない、会社が許してくれないという状況ならば、是非「有給休暇制度が無い建築設計事務所で休むための現実的方法とメリット」をお読みください。)
私の場合は、午後1時から9時までという変則的な時間で働いていたので午前中に余裕を持って勉強することができました。
しっかり準備できるようになった受験直前には、1日3時間を週4回、残り2日は1日1時間未満で軽く流すというスケジュールをつくって実行していました。
これならば1週間あたり22~24時間程度勉強できるのですから相当な時間を確保できます。
しかし、そこに至るまでの準備にも時間がかかったので、早めに態勢を整える、体も慣れてくることができればそれだけ早くから楽もできたよなとも思っています。
また、私の場合は午前中にも仕事が入ってくる事が多かったのですが、同じ仕事で関係する方達に少し多めに仕事に入ってもらうことで対応することができました。
通勤の時間を利用して固定した勉強時間にあてる方も多いようですが、できれば定時の仕事の前後どちらかを使って勉強時間としたいところです。
一級建築士を取ることによるメリットはあなただけでなく同僚に、もちろん会社にも及ぶのですから、きちんと理解を得た上で出社時間を少しばかり調整できるとよいですね。
一級建築士の学科試験は集中と選択が大事。まずは法規から固めよう
一級建築士学科受験に向けた対策は、広範囲に及ぶ学科試験の中で最も点を固めやすい、確実に点を取れる科目を決めることがなによりも重要です。
自分の職務経験上で得意な教科とはまた違う観点から、点を落とさないことを重視することも大切な対策です。
多くの方の場合、固める教科は「法規」になります。
法規は建築基準法などの法令集を素早く引くための準備さえ整っていれば、基本的には間違えることがないものですから、あとは早く目に留まるための法令集への線引きやインデックス作成などのテクニックをどれだけ準備しておくかという勝負になるからです。
私は初回の受験ではなるべく覚えようとしていましたが、覚えることを捨てて法令集を引く早さにこだわったことで1回目の30点中15点から2回目は27点にまで引き上げることができました。
法規にて安定して点が取れるようになったことによって、受験期の終盤では他の科目で出てくる新要素や不安定要素への対応のための勉強時間が取れるようになったことも功を奏しました。
他にも学科試験の出題傾向によって点数のブレが出にくい教科としては「構造」が良いと私は考えます。
逆に「意匠」「環境・設備」は定番の問題に加えて時事を反映した問題を取り込みやすいので、点を固めるという意識には向かない教科だと言えます。
その代わり周辺環境に対応した建築設計やコンストラクションマネジメントなどの新しい発注方式についてなど、知識を深掘りすることによって差を付けやすい分野でもありますので、こちらは勉強期間の終盤で勉強するべき科目だと言えます。
一級建築士の合格を目指すために資格学校の教材をうまく利用する
私は2回めの受験の際に、資格学校に通って試験対策を行いました。
大手の資格学校のうち、私は総合資格学院に通っていましたが、日建学院でも同様のことが当てはまる内容だと思われます。
資格学校の強みは、受験生の弱点を明らかにした上で、きちんと基礎学力を固めるための仕組みが整っていることです。
上にも挙げたように点を取るというよりは点をなるべく落とさないという意識、観点からアドバイスをもらえることはとても有り難いことです。
なぜならば自分1人での孤独な勉強では無駄だと感じてすぐ諦めそうになるところを、外部からサポートしてくれる存在でもあるからです。
弱点を潰せばなんとかなるという安心感を得られますし、効率的な得点を得るための心構えを常に持つことができるので、法規で暗記ばかりに頼ってしまうような、私にとって無駄な勉強時間を圧倒的に減らすことができました。
自分で自分の弱点を見つけて、その解決策を考えることに自信の無い方は是非資格学校に通うべきだと私は感じました。
また、自分の勉強のサポート役としての役割とともに、資格学校が非常に役に立ったのは膨大な問題量を得られたことでした。
一級建築士学科試験は4択の問題が多いとはいえ、結局はそれぞれの選択肢の正誤を論理的に導くことができなければ点数につながりません。
その選択問題を多様なパターンで繰り返し解いていく、多くこなすことで、問題文が持つ論理の流れやひっかけポイントに慣れていく効果が得られます。
資格学校の講義に毎週出席するたびに各教科小冊子が1冊ずつ増えていくので、それを繰り返すだけでも相当なトレーニング量、多くのパターンの問題を解くことに繋がりました。
さらには過去問からの派生問題だけでなく、新しい分野への出題も積極的に行い、解説も付いた良質な資料、情報がリアルタイムで手に入れられるので、教材の充実度だけでも結構な価値があると感じました。
私はこれらの問題を教科ごとにまとめたファイルを常に手に取れる所に置いておき、きちんと理解できた問題から消していくことによって自分が理解できる範囲の確認もできることが合格に繋がったとも考えています。
一級建築士受験につぎ込んで得られるリターンは非常に大きい
常に長時間労働が常態化している建築業界において、一級建築士の資格取得に向けた時間はなかなか確保できるものではありません。
一級建築士合格のために働きながら一日2時間近くを取るためにはかなりの調整が必要であり、誰もが悩む道だと思います。
ただし、これだけの多く時間をかけて、取得出来た一級建築士の資格によるリターンは非常に大きいものなのです。
なぜならば転職市場においては、一級建築士の資格の価値は非常に高く、少なくとも年収換算で50~100万前後の価値があるからです。
更に一級建築士の資格は年収面の価値だけでなく、仕事選びに「幅」すらもたらしてくれます(選択肢がふえるのです)。
※ 一級建築士のメリット:「一級建築士合格後の転職の選択肢や年収への影響を解説します」
また、残念ながら多くの時間をかけても不合格になってしまうこともありえるのですが、それでもきちんと問題を理解して回答スピードを上げることが出来ているのならば、その方向性を継続していけば確実に手応えはつかめるところまでは行けると私は確信しています。
一級建築士という大きなリターンを得られるよう、きちんと自分の時間に投資を行い、合格することでしっかり回収を行えることを願っています。