忙しさが報われる設計事務所と残業や働き方の実態を見抜く4つのポイント

建築設計事務所は忙しいのに儲からないということを、よく耳にします。

私も中堅の組織設計事務所で働いている時は報われない業界だなと感じていましたが、転職エージェントとして各社の実態が集まってくるようになると、設計事務所によって働き方がだいぶ違うということがわかりました。

この記事は、自身が組織設計事務所で働いた経験に加えて、転職エージェントとして各社の人事及び、スタッフにヒアリングした結果をまとめた、設計事務所の働き方の解説記事です。

設計料算定の基本的な考え方については、建築設計事務所の給料が安くなる理由を売上と人工単価から解説しますにまとめてあります。あわせてお読みください。

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1,見積書にスタッフである自分の単価が入っていない

小さい設計事務所やそこそこの規模の会社でも若手のスタッフでは、見積書に自分の単価が入っていないこともありえます。

そこそこの規模の会社であればメイン担当者、小さい設計事務所なら代表である所長の単価しか見積に入っていないこともよく見かけます。

メイン担当者の人件費しか計上されていない場合は、いくらアシスタントとして頑張っても売上に貢献できないため、給料は最低賃金に近い状態になってしまいます。

2,クライアントへの提示が自分の給料の2.5倍を満たしていない

あなたのスキルが変わらなくても、所属している設計事務所によって、設計料は大きく変わります。

たとえば、似たようなスキルを持つ30代前半の建築士がいるとしましょう。

各社の設計料のイメージは、

大手の組織設計事務所の設計単価 10万/人工
中堅の組織設計事務所の設計単価 7万/人工
所員数人の設計事務所の設計単価 4万/人工

これくらいの差があります。

さらに、組織設計事務所のなかでも、最大手と3~4番手の会社では、同じプロジェクトでの設計料が2倍も違うこともあります。
価格が倍違うのにもかかわらず、発注者は設計料が高い設計事務所を選ぶこともあるのです。

この時の発注者は、「総事業費に比べると設計料は誤差みたいもの」とコメントしました。
それであれば、「高くても提案力のある会社を採用したい」ということでした。

このように設計料は同じプロジェクトでも見積の作り方と提案内容によって、大きく変わってくるのです。

また、同じ設計事務所でも、BtoB(法人がクライアント。大型物件が多い)BtoC(個人がクライアント。店舗や木造住宅が多い)では設計料は大きく変わります。

BtoBとBtoCの設計料では、BtoBの単価がBtoCの倍にもなります。
このように設計料は、クライアントや会社の規模によって大きく異なるのです。

3,見積が甘い、もしくは実態とかけ離れた見積になっている

単価としては適切でも、見積が甘く、とても見積通りに進めることができない状況もあります。
原価管理をしていない設計事務所では、見積の甘さが、忙しさの原因となっているケースもあります。

工事費や面積を根拠に設計料を算出している設計事務所では、プロジェクトの進行中に利益率を正確に把握できずに進めていることもあります。

原価管理をきちんとしている設計事務所においては、たとえ工事費ベースで設計料を算定したとしても、人工の積上げに換算して、プロジェクトへのスタッフの投入量をコントロールすることで適正な利益を確保しています。

原価管理といっても、スタッフごとに、どのプロジェクトにどれくらいの時間をかけているのかで大枠は管理できます。

利益率の計算

実際にスタッフに支払う金額に加えて、各種経費やオフィスの賃料、管理部門の人件費などを考慮すると、2.5倍が適正な数字と考えられています。

4,月20人工消化できない仕事量

残業を月100~300時間レベルの仕事をしていたとしても、見積書に入っている(と想定されている)人工が1ヶ月の稼働日数である20人工を割り込んでいることもあります。

設計事務所の場合は、作品性を追究したときに起こりがちです。
クリエイティビティをクライアントへの見積に転嫁できていない時に、このような状況におちいります。

以前にキャリア相談で伺ったアトリエ事務所のスタッフの話では、
所長とスタッフをあわせた設計料が2年間で400万円で、担当プロジェクトはそのプロジェクト1つだけだったそうです。

この事例は極端に感じられるかもしれませんが、忙しくても儲からないというプロジェクトは気がつくと発生してしまいます。

小さい設計事務所であれば、所長が効率性度外視で成果を求める場合に起こります。
組織設計事務所の場合は、部門長・部長クラスが会社から野放しになっている場合に起こります。

長時間労働が恒久的なものになるかどうかは、このようなプロジェクトが生まれそうなときに、会社として早めに対策を取れるかどうかがカギです

転職して家庭の時間が取れる人のイメージ

差別化できない設計事務所は、競争に巻きこまれて単価が安くなる

設計事務所の経営に助言する立場から見ると、差別化されていない設計事務所は競争させられて、単価も下がっていく傾向にあります。

全方位的に「すべてやります」と言うよりも、得意分野を明確にすることで、差別化を図ることで競争相手が少なくなります。

たとえば、ホテルや医療に特化しているとか、運営やリーシングなどにも配慮した設計ができるといった「ウリ」が必要です。

得意分野がしっかりしていて、HPをきちんとまとめている会社は、問い合わせ経由で仕事が取れています。
こうした独自の集客ができている会社は、設計料を値切られにくくなります。

働き方は設計事務所によって全く違う

忙しさの原因は設計事務所のスタンスに起因していることがほとんどです。
設計単価が低い設計事務所や、原価管理が甘い設計事務所にいると、どんなに働いても適正なお金やプライベートの時間を得ることはかないません。

残業がつらいという理由で仕事探しをはじめる方もたくさんいらっしゃいます。
しかし、新しい職場環境では、より前向きに残業して働いているケースもほとんどです。

つらいのは裁量権がないのに長時間が続いていたり、頑張って働いているのに報われない矛盾が原因のように感じます。

今回ご紹介した4つのポイントを使って、ぜひ自分の会社の働き方を振り返ってみてください。

他の会社の働き方や設計やマネジメントのスタイルを知りたい方は、フリーランチの建築キャリア相談よりご相談ください。

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