地域には、市民がアートや歴史に触れることのできるさまざまな美術館や博物館などの施設がありますが、近年「デザインセンター」と呼ばれるあたらしい施設が生まれています。
あまり聞き馴染みのないこの「デザインセンター」とは、どのような施設なのか、どのようなことができるのか、あまり知られていないのが実情です。
しかし、「デザインセンター」には市民の生活やさまざな活動をサポートしたり、より豊かにできる機能が備わっています。
今回は、そんな「デザインセンター」について、いくつかの事例をもとにご紹介します。
デザインセンターってなに?公共施設なの?
デザインセンターとひとことに言っても、実はその活動内容は施設ごとに個別でさまざまです。しかし、公共の施設として、ひろく一般市民にひらかれた、クリエイティブな機関であることは共通しています。
この記事では、デザインセンターを「施設自体にクリエイション機能を備えつつ、地域に対してアクションを試みている施設」と定義しています。
機能もアクションも施設ごとにさまざまですが、施設によってはその活用のしかたによって、自分のビジネスへと発展させることもできます。せっかくの市民にひらかれた施設、使わない手はないですよ!
デザインセンターと美術館・博物館との違いは?
デザインセンターと類似する施設として、美術館や博物館があります。
ではそもそも美術館や博物館とはどのような施設なのでしょう。博物館について、辞書には次のように記載されています。
歴史・芸術・民俗・産業・自然科学などに関する資料を収集・展示して一般公衆の利用に供し、教養に資する事業を行うとともに資料に関する調査・研究を行う施設(出典:デジタル大辞泉)
美術館は博物館に含まれ、特に美術・芸術作品に特化して資料を収集・展示している施設です。
資料の収蔵・閲覧機能としての美術館や博物館とは異なり、ほとんどのデザインセンターには資料や作品を収蔵するコレクション機能がありません。なにかを集め、一般に公開するための施設ではなく、なにかを生みだすための施設なのです。
面白い取り組みをしているデザインセンター事例、関西編
先述したように、デザインセンターが行っているなにかを生みだすための活動は、施設によってその内容がさまざまです。
そこで今回は、筆者が居住する関西地区に限定して、いくつかのデザインセンターの活動内容を紹介します。
大阪府立江之子島文化芸術創造センター/enoco
大阪府立江之子島文化芸術創造センター、通称「enoco(えのこ)」は、大阪という都市を元気にすることを目指して2012年4月に開館したデザインセンターです。
ギャラリーや多目的ルームのレンタル事業を行うほか、企画展や公演、セミナー・ワークショップなどの自主事業に加え、地方自治体やまちづくり団体の個別相談にも対応するなど、クリエイティブな発想とネットワークで都市や社会が抱える様々な課題の解決に取り組んでいます。
enocoは、アートやデザインなどがもつ創造力を活かして、都市魅力の向上や社会課題の解決に取り組む文化拠点として、「社会課題の解決」「多様な創造活動」「教育・人材育成」「交流の促進」を支援する様々な自主事業を展開しています。
地域活性化やいろいろな事業の広報力アップ、組織のブランディングなどに取り組んでいる人たちの悩みを、各分野で活躍するアドバイザーたちがマンツーマンで相談にのってくれる「enocoのそうだん[eno so done]」では、建築やランドスケープの専門家やコピーライターなど、さまざまな分野のプロにビジネスの相談にのってもらうことができます。
ほかにも、レクチャーやフィールドワーク、ワークショップなど豊富なカリキュラムを通して、地域のソーシャルビジネスに関わる人材を育成するプログラム「enocoの学校」など、市民が自分の住む地域やビジネスにより豊かに関わることを促すプログラムが数多く実施されています。
メビック扇町
メビック扇町、正式名称クリエイティブネットワークセンター大阪は、主にクリエイターネットワークのインキュベーション機能をもつクリエイター支援施設です。
クリエイターの情報を集積し、クリエイターと他業種のビジネスマッチングを行っています。
クリエイターと協働したい企業や、パートナーを探しているクリエイターは、まずはメビック扇町に相談します。メビック扇町専属のコーディネーターがビジネスの内容をこまかくヒアリングしたうえで、異業種のビジネスマッチングを行います。
メビック扇町に登録されているクリエイター、関連企業は1153社!(2016年8月現在)
ビジネスマッチング事業以外にも、クリエイターや企業があつまるプレゼンテーション大会や商談会の開催、新規事業を生みだすプロデュース能力の向上を目指したセミナーやワークショップの開催など、さまざまな企画が展開されています。
異業種との協働であたらしいビジネスを模索している人は活用してみては。
神戸アートビレッジセンター(KAVC)
若手芸術家の育成、まちの活性化を目的に1996年開館した創造文化施設が、神戸アートビレッジセンター、通称「KAVC(カブック)」です。
演劇・美術・映像・音楽などにかかわる様々なアーティストたちの制作・練習・発表の場として利用されているほか、多くの人々が気軽に訪れ交流できる‘アート’の拠点として活動しています。
若手アーティストやキュレーターの育成支援を目的とした公募型の展覧会の実施や、地域を活性化させるプロジェクトを市民とともに考えるトークショー、まち歩き企画の実施など、さまざまなイベントが行われています。
また、施設内で年間100本の映画上映を主催。世界の名作や新作映画だけでなく、音楽ライブ用の音響施設を用いた大音量の映画鑑賞「爆音映画祭 in 神戸」の開催など、さまざまな企画のもと映画上映がされています。
デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
KIITO(キイト)の愛称で親しまれている神戸市の施設です。正式名称はデザイン・クリエイティブセンター神戸。
大きなホールや会議室を備え、「クリエイティブラボ」と呼ばれるレンタルオフィスには、建築設計事務所やデザイン事務所、写真事務所など、クリエイティブな職業の方々がオフィスを構えています。
レンタル事業のほかに、おおくの自主企画を展開しています。その数、年間のべ300を超えています。
それらおおくの自主企画のうち、特徴的な企画が「+クリエイティブゼミ」と呼ばれるゼミ形式の企画。地域がかかえる社会課題に対して、一般市民を公募し、あらゆるジャンルのプロを講師に3ヶ月にわたるゼミを開催し、アクションプランを出し合います。
市民が発案したアクションプランは、実際に社会課題を抱えている行政等に提案され、事業化されています。事業化されたアクションプランは行政やゼミに参加した市民だけでなく、地域の企業やその他市民を巻き込みながら、さまざまに展開されています。
身近にあるデザインセンターを使い倒そう
地域に対してさまざまなアクションを展開しているデザインセンターは、その活動に参加することでその真価を発揮します。
あなたの暮らす地域にも、今回紹介したようなデザインセンターがあるかもしれません。
もちろん、デザインセンターは地域の生活をより豊かにするために活動しているので、活動に参加せずとも地域が活発になっていくこともあるでしょう。
しかし、自分の意見が地域に反映されたり、あたらしいビジネスにつながる可能性もあります。
せっかくのデザインセンター、ぜひ使い倒してみてください。