建築設計事務所の新卒や転職の求人情報を見ていると、しばしば違法求人となってしまっている掲載情報を見かけます。
近年の働き方改革に関する報道によって、多くの建築設計事務所でもかつての状況と比べると改善されましたが、求人広告や求人サイトに掲載されている情報は、その情報が法律的に正しいかの確認がされないため、今でも違法求人となってしまっているケースが多々存在します。
建築設計事務所の求人情報の場合、規模の小さい会社が多く、雇用主である建築家が労働基準法などの基準を正しく理解しないままに求人を出している可能性も考えられます。
この記事では、建築設計事務所の求人転職情報でよく見られる違法求人となってしまっている掲載情報の内容を、実際の求人情報をもとにご紹介します。
この記事のポイント
まずはまともな求人を確認しよう
まずは、まともな、違法でない求人情報とはどういうものなのかを確認してみましょう。
例)
設計スタッフ募集
業務時間:9:00〜18:00(昼休憩1時間)
休暇:土日祝
給与:18万円〜
賞与:年1回
待遇:交通費支給、社会保険・雇用保険完備
ポイントは、給与が正しく支払われるか、業務時間が法律が定める時間を超えていないか、加入義務のある保険に正しく加入しているか、などです。
よくある違法求人は、これらのポイントのうち、いくつかが足りていないのです。
よくある違法求人の項目別概要
それでは、よくある違法求人の内容を簡単に確認していきましょう。
項目別に表にしてみました。
項目 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
給与 | 給与が最低賃金を下回っている | |
給与 | 給与内容が無記載 | |
残業代 | 業務時間が法定労働時間を超えている | 1日の労働時間超過 |
残業代 | 業務時間が法定労働時間を超えている | 土曜日出勤 |
保険 | 雇用保険・社会保険の無記載 |
以下、それぞれの内容ごとに、実例をもとにご紹介します。
給与が最低賃金を下回っている
実例)
A社(東京) 設計アシスタント募集
新卒可、CADソフトが使えること
給与:14万円〜
賞与:年1回
昇給:年1回
給与が法律の定める最低賃金を下回っている場合です。
最低賃金は雇用形態にかかわらず、原則としてすべての労働者に適用されるので、正社員だけでなく、アルバイトや、今回のようなアシスタント業務にももちろん適用されます。
2017年現在、東京の最低賃金は932円です。
最低賃金は時給換算で定められているため、月給換算してみると、
932円×160時間(1日8時間×週5日×4週間)=149,120円
となります。
今回の求人情報では、給与が月14万円〜となっているため、労働法に抵触する違法求人になってしまいます。
最低賃金の確認の方法などについては、次の記事をご参照ください。
・「東京の最低賃金は932円、転職時の求人情報や給与明細を確認しよう」
給与内容が無記載
実例)
B社 設計スタッフ募集
即日勤務可能な方歓迎
実務経験のある方、英語でのコミュニケーションが可能な方
給与:能力によって応相談
賞与:年2回
昇給:年1回
給与に関する具体的な記載がなかったり、あいまいにされているパターンです。
今回の実例のほかにも、「当社規定による」「社内規定による」などの表記しかない例もあります。
たとえ社内の規定内であったとしても、先述した最低賃金よりも下回っている場合は違法求人になります。
このような給与に関する記載がない求人情報の場合は、入社前に事前に確認をおこなう必要があるでしょう。
1日の業務時間が法定労働時間を超えている
実例)
C社 正社員スタッフ募集
設備・構造設計経験者優遇
給与:18万円〜
業務時間:10:00~20:00
休暇:土日祝
労働条件として示される1日の業務時間が、法定労働時間を超過している場合です。
業務時間は、労働基準法によって「1日8時間・1週40時間以内」と定められており、この業務時間のことを法定労働時間と呼びます。
今回の求人情報の場合、業務時間が「10:00〜20:00」と記載されているため、途中1時間の休憩をはさんだとしても、1日の業務時間が9時間となっています。
これでは法定労働時間を1時間超過していることになります。
この会社が三六協定を結んでいる場合、法定労働時間を超過して働かせることはできますが、その場合は残業代を支払う必要があります。
今回のような場合は、会社が三六協定を結んでいるか、結んでいる場合は正しく残業代が支給されているかを確認しましょう。
三六協定については、次の記事で詳しく解説しています。
・「建築設計事務所が三六協定を定める時に必要な3つのポイント|建築士のための労働法入門」
土曜日が出勤になっている
実例)
D社 設計スタッフ募集
すぐに勤務開始できる方優遇
給与:社内規定による
休暇:日祝、夏季休暇、年末年始休暇
待遇:雇用保険完備、交通費支給
この求人情報では、休暇が日祝になっているため、土曜日は出勤になります。
業務時間の記載がないため推測となりますが、仮に1日の業務時間が7時間だったとしても、祝日がない週では1週間で42時間となり、前項と同様に法定労働時間を超過することになります。
法定労働時間を超過して勤務させること自体は違法ではありませんが、残業代が支払われない場合は違法となりますので注意が必要です。
雇用保険・社会保険の無記載
実例)
E社 設計スタッフ経験者募集
給与:25万円〜
休暇:土日祝
待遇:交通費支給、労災・労働保険加入
一見すると違法求人ではないようですが、待遇欄に労働保険に関する記載はありますが、社会保険については記載されていません。
社会保険への加入は法律で定められており、従業員5名未満の個人事業主の設計事務所の場合は強制ではありませんが、法人事務所である建築設計事務所の求人の場合は、加入義務があります。
記載漏れであるならばよいのですが、法人事務所であるにも関わらず社会保険に未加入の違法は会社や建築設計事務所も存在します。
こうした違法求人は少なからず存在しますので、建築設計事務所の求人を探す際は注意しましょう。
入社前に必ず労働条件通知書を確認しよう
先述しましたが、求人広告や求人サイトに掲載されている情報は、その情報が法律的に正しいかの確認がされないため、違法求人となってしまっているケースが多々あります。
掲載された違法求人が、単なる掲載漏れであればよいのですが、悪質に偽装している場合や、雇用主の知識不足により違法となっている場合も考えられます。
こうした違法求人に対して、トラブルを事前に回避するために、入社前には必ず労働条件通知書を発行してもらい、内容を確認するようにしましょう。
「転職内定から入社までに確認すべき労働条件や必要書類の基本を解説」では、労働条件通知書の記載内容のついて、確認すべき基本項目を解説していますのでぜひ合わせてご覧ください。
とは言うものの、違法求人の真偽を労働条件通知書で見抜けることはできるものの、そもそも通知書を確認しなければわからないような求人を出している時点で、働くことや会社の経営に関してのリテラシーが低い可能性がとても高いです。
大きな求人サイトでもこのようなリテラシーの低い求人は出ているので、なるべく付き合うことのないようにしたいものですね。