建築業界で働く人に向けて、国民年金と厚生年金の基本と違いについて解説します。
建築業界には、会社員・建築設計事務所を開設した個人事業主・社保未加入の会社で働く設計者、など様々な人がいますが、働き方によって加入できる年金に違いがあります。
そして、国民年金には厚生年金に比べ明確なデメリットが存在します。国民年金のみに加入している方は、厚生年金との違いをきちんと把握することが重要です。
なお、本記事では執筆時である2017年6月の行政等による公開情報を参考にしております。
国民年金と厚生年金の基本
年金加入者を大きく分けると、国民年金のみに加入している人と、厚生年金と国民年金の両方に加入している人がいます。
国民年金は、日本に住所がある20歳以上60歳未満の方全員が加入しています。
建築業界では個人事業主として建築設計事務所を開設している方も多く、その場合はフリーランス同様、国民年金のみに加入しているのが一般的です。
同様に、社会保険に加入していない個人事業主の設計事務所で働く方も、加入しているのは国民年金です。
厚生年金は、社会保険を完備している会社で働く会社員が加入しています。そのため、建築業界の中でも組織設計事務所やゼネコンなどにお勤めの人は厚生年金に加入しているケースが多いです。
ちなみに、株式会社や有限会社などの法人は社会保険へ必ず加入しなくてはなりません。ただ、中には違法に未加入の会社や設計事務所も存在しています。
その場合、単に自分が損しているという話以上のリスクも存在するので注意が必要です。
・「建築設計事務所の転職で給料や社保未加入など違法な求人や慣習を紹介します」
違法な社会保険未加入設計事務所など、建築業界で見られる違法な習慣やそれによる個人のリスクを紹介した記事です。
国民年金は1階部分、厚生年金は2階部分
よく言われているように、厚生年金は2階建て、国民年金は1階建ての構成です。
下図のように、厚生年金加入者は国民年金にも自動的に加入しています。
そのため、きちんと保険料を納めていれば、将来的には厚生年金と国民年金の両方がもらえます。
個人事業主、社保無し設計事務所 | 一般的な会社員、組織設計やゼネコン | 会社員の配偶者 | |
---|---|---|---|
2階 | なし | 厚生年金 | なし |
1階 | 国民年金(第1号) | 国民年金(第2号) | 国民年金(第3号) |
年金は老後にもらえるものだけではなく、全部で3種類ある
年金といえばリタイア後にもらえる老齢年金のイメージが強いですが、実際は下記の3種類の年金があります。
・老齢年金:いわゆるリタイア後にもらえる年金
・障害年金:病気やケガにより障害を負ったときにもらえる年金
・遺族年金:死亡したときに遺族がもらえる年金
国民年金と厚生年金でそれぞれ下記表のような名称となっています。
国民年金 | 厚生年金 | |
---|---|---|
老齢年金 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 |
障害年金 | 障害基礎年金 | 障害厚生年金 |
遺族年金 | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 |
いずれの種類の年金についても、国民年金のみに加入している個人事業主の建築設計者や社会保険に未加入の個人設計事務所の所員より、厚生年金に加入している組織設計事務所やゼネコンの会社員の方が手厚い給付を受けられるという認識で良いでしょう。
ちなみに、健康保険についても、国民健康保険と建築業界の各種健康保険が存在します。詳しくは下記の記事が参考になるかと思います。
・「給与以上に得をする!建築・建設系企業が加入する3つの健康保険組合の違いを徹底解説」
建築設計事務所やゼネコンが加入する健康保険組合の中身を紹介している記事です。
国民年金と厚生年金の主な違いと押さえておきたいポイント
国民年金と厚生年金では、保険料の考え方や将来もらえる年金である老齢年金の金額など多くの違いがあります。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」によれば、H26年の国民年金受給者は平均5.7万/月、厚生年金受給者は平均15.4万円/月の老齢年金を受け取っています。
その他、老齢年金に関する国民年金と厚生年金の主な違いを下記表にまとめました。
国民年金 | 厚生年金 | |
---|---|---|
対象 | 20歳以上60歳未満の人全員 | 社保加入の会社や設計事務所で働く人 |
位置付け | 1階部分 | 2階部分 |
保険料を払う人 | 個人 | 個人と会社で半分ずつ |
保険料の金額 | 毎月16,490円(H29年度) | 給料の額から決まる |
将来もらえる年金 | 老齢基礎年金のみ | 老齢基礎年金+老齢厚生年金 |
将来もらえる金額の平均※ | 5.7万/月 | 15.4万/月 |
備考 | 満額で年間779,300円(H29年度基準) | 配偶者は0円で国民年金に加入(条件あり) |
※「厚生年金保険・国民年金事業年報」による
国民年金のポイント
国民年金について押さえておきたいポイントは下記になります。
・保険料は給料に拠らず一定額で、毎月16,490円(H29年度)
・20〜60歳まで満額で納めた場合、年間で779,300円の老齢年金が貰える(H29年度基準)
・納付期間などの合計が10年以上で老齢年金を貰える(H29年8月1日から)
・滞納すると事故などで障害を負っても障害年金がもらえない可能性がある
・支払うことが難しい人のために免除制度や追納制度がある
・付加年金や国民年金基金など、国民年金にプラスして年金額を増やせる制度もある
国民年金の受給資格はこれまで25年以上でしたが、無年金者の問題に対応するために10年以上に短縮されます。ただし、受け取れる年金の額は支払った期間に応じて少なくなります。
厚生年金ののポイント
厚生年金について押さえておきたいポイントは下記になります。
・保険料は会社が半分出してくれる
・保険料は給料(報酬+賞与)を元に決められる
・ざっくり把握するなら、毎月の給料の9%程度を自分で支払う。賞与は別で計算。
・国民年金にも自動的に加入していることになる。
・配偶者は保険料0円で国民年金に加入できる(本人の年間収入130万円未満etc条件あり)
厚生年金加入者は国民年金にも加入しているため、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方がもらえます。
また、配偶者は保険料がかからず国民年金に加入することができるというメリットは、夫婦で建築設計事務所を主催している個人事業主の方々と差が出るポイントです。
国民年金と厚生年金は違いについて建築業界で働く皆さんもきちんと認識しておこう
国民年金はあくまで基礎的な年金であり、厚生年金の加入者には国民年金だけでは得られない様々なメリットがあります。
特に、配偶者の保険料負担が無料で国民年金に加入できるという点は、厚生年金だけのメリットです。
そのため、結婚などライフステージの変わり目に厚生年金に加入している組織設計事務所やゼネコンへ転職し、将来を見据えながらじっくりスキルを磨くという方法もあります。
国民年金のみに加入している個人事業主の建築設計事務所開設者や社会保険未加入の設計事務所で働く設計者の方も、制度の概要を把握したうえで適切な働き方と老後の備えを検討しましょう。