知人の紹介で失敗するアトリエ建築設計事務所への就職転職

建築業界は大学の先生や研究室の先輩、非常勤講師などとのつながりが緊密な業界です。
仕事探しも自分が所属していた大学のネットワークを活用して、知人経由で転職する方もたくさんいらっしゃいます。

知人のツテで設計事務所を紹介してもらう場合、仕事が見つかるのが早い反面、中長期的にキャリア的に失敗するケースが後をたちません。

キャリア相談で働き手のみなさんから聞く、転職の失敗例で一番多いのがこの「知人の紹介でアトリエ事務所に就職転職すること」です。

この記事では身近なところにある落とし穴、知人の紹介で就職・転職するとなぜ失敗するのか。建築学科独特の文化も含めてわかりやすくまとめました。

※2017年1月19日追記(2016年7月21日公開)

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知人の紹介での就職・転職先探しは、建築業界では失敗の元

知人経由でのアトリエ設計事務所への転職は、なぜ失敗するのでしょうか。
(ここでいうアトリエ事務所は、所員10人以下の小規模な設計事務所やリノベーションを主とする会社などの総称です)
こうした仕事の探し方のどこに問題があるのかを一緒に考えてみましょう。

あなたの将来のキャリア形成を考えて、設計事務所を紹介していない

あなたに仕事を紹介してくれる人は、「これから紹介する仕事を辞めたら、どうなるのか」という観点では紹介してくれません。
仕事探しに困っているあなたに、無職でいるよりはいいだろうという、善意の気持ちで紹介してくれています。

キャリアコンサルタントとしての私の観点では、若い頃に間違った会社選びをするくらいなら、少しでもいい条件で働ける職場をじっくり探した方がいいと思っています。
場合によっては建築業界以外でアルバイトをして食いつないだり、派遣社員として仕事をしながらスキルをためたり、一級建築士の取得に励んでもよいでしょう。

職務経歴書に変な経歴ができるくらいなら、転職市場の評価的には働かない方がマシなのです。1年以内のブランクであれば、挽回は簡単です。
仕事がなかったとしても、心を折らずに自分の力を活かせるような会社を探してください。

仕事を紹介してくれる知人は、現在の転職市場に精通していない

あなたに仕事を紹介してくれる知人が、現在の転職市場に精通していない可能性があります。
建築業界はとくに景気の影響を受けやすい業界です。転職しやすい時期や年収のレンジが変わりますが、働きながら転職市場の流れを把握するのは難しいものです。

仕事を紹介してくれる知人が、あなたの市場価値を理解していない

また、アトリエ事務所とアトリエ事務所以外の市場価値や年収の相場、キャリアアップのルートなどをわかっていない可能性もあります。

わたしは元々組織設計事務所で設計をしていたのですが、30代前半で1年くらいのブランクがありました。
心配していただいた研究室の大学教授に「仕事あるから行ってきなよ」、と声をかけて貰ったアトリエ設計事務所の待遇が、「フルタイムで月給6万」でした。

最低賃金以下なのはもちろんのこと、フルタイムで6万ではさすがに暮らしていけません。
もちろん、この先生は私のことを気にかけていただいた上でのご厚意だったので、私も返答に戸惑いました。

自分の能力と紹介先の設計事務所のグレードが釣りあうことは少ない

知人から紹介されたアトリエ設計事務所とあなたの能力が、釣りあっている可能性はほとんどありません。
あなたの能力と採用側の設計事務所のグレードとの釣り合いが取れていないと、長く働き続けるのが難しくなります。

通常の転職活動では、複数の会社に応募して、その中から選ぶ形だと自分の市場価値が自ずと妥当なところに落ちつくものです。
転職エージェントを利用するメリットとして、第三者の目を通じてあなたのキャリアを見定めてもらうこともあるのです。

失敗例にはこのようなケースがあります。
所長との反りが合わなかったり、待遇が当初のものと違ったなどとして、早い段階で退職にいたるケースも多い
のです。
場合によっては退職の意思を示しても辞めさせてもらえなかったり、鬱になるまで辞めらないような、ブラックな設計事務所もあるそうです。

小さいアトリエ設計事務所は採用制度も整っていないため、自分の能力と会社の格との間にアンマッチが生じやすいのです。

設計事務所の職探し成功した人のイメージ

建築の仕事をずっと続けるために、仕事探しにも時間をかけましょう

建築業界で働く若手設計者、技術者にとって、最初の数社をどのように選ぶかはあなたが考えているよりも重要です。
どんな会社でどのような仕事をしていたのかは、職務経歴書に書かなくてはいけません。職務経歴書では自己アピールはできますが、どのような会社にいたかという点では嘘は書けないからです。

後から、「なぜこの会社を選んだのか」、「どのような目的でこの会社で働こうと思ったのか」が説明できるな会社を選ばなくてはいけません。

なんとなくで選んだ設計事務所や小さい会社が3~4社職務経歴書に書かれていたら、あなたをまともな待遇で招いてくれる会社がなくなってしまいます。
仕事選びを失敗すると、あなたのキャリアの価値がさがってしまいます。

あなたが建築の仕事をずっと続けたいのならば、あなたの将来的なキャリアを左右する目の前の仕事選びに時間をかけなくてはいけません。

独力で設計事務所を探すなら、徹底的に研究しよう

職歴に大きなブランクがあったり、異業種から建築業界を目指すなど、独力で就職・転職をせざるをえないケースもあります。
失敗しない仕事探しをするにはどうしたらいいのでしょうか。

参考までに、フリーランチのキャリア相談で小さい設計事務所探しの相談を受けるときのプロセスを紹介します。

我々が仕事先を吟味する場合、まず知人を経由で依頼者の状況を伏せて、その設計事務所の評判を探ります。

大半の設計事務所の情報を得ることができますが、なかには知らない会社がでてくる場合もあります。
そうした場合は「信用情報」を調査することもあります。

具体的には相談者が希望するいくつかの設計事務所のなかから、帝国データバンクで与信を取って経営状態を確認します(過去数年の売上や会社規模の推移など経営状況がわかります)。

ウェブサイトの更新頻度や実績の規模感から売上を推計するなど、確認するポイントをアドバイスすることもあります

また、転職内定から入社までに確認すべき労働条件や必要書類の基本を解説」で解説したように、労働条件通知書を一緒に確認することもあります。

建築事務所で働く人のイメージ

自分のキャリアは、自分で守ろう

仕事や職場というのは、慎重さをもって選ばなくてはいけません。
会社側はあなたの採用にミスをしても短期的なダメージで済みますが、働き手のあなたは履歴書や職務経歴書に一生書かなくてはいけないからです。

目の前の仕事探しは、あなたの一生の仕事探しに影響するものです。

建築業界は30~40年ずっと第一線で働き続る事もできる業界です。
一生働き続けるためには、40歳くらいまでのキャリアの選択は慎重に積み上げていくべきなのです。

知人から紹介を受けた場合は、チャンスでもありますが、見極めも大事です。その会社のことを調べてもどうしたらいいのかわからない場合もあります。
フリーランチでは、独力での仕事探しのお手伝いもしています。詳しくはリンク先より詳細をご覧ください。

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